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休蔵さん
休蔵
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新しく世界遺産に登録されると、そこは多くの注目を集め、多くの人たちが訪れる。その陰では、様々な事情で消滅の可能性が付きまとう、危機遺産と呼ばれるものもある。本書は危機遺産に注目した1冊。
 日本において新たに世界遺産が登録された際は、とても大きく取り上げられる。
 その直後から多くの観光客が来訪し、世界遺産を抱える地域では経験したことがないようなお祭り騒ぎになると聞いたことがある。
 ただし、別地点で新たな世界遺産が登録されると、観光客はそちらへと移動し、一気に閑古鳥が鳴くことになるとも報道で見た覚えがある。
 世界遺産登録の目的は観光誘致ではないことは、改めて言うまでもないだろう。
 でも、ついつい新しく登録された世界遺産に目移りしてしまい、次の旅行の目的地に選定してしまいがちだ。
 しかしながら、世界遺産に登録されたら安泰というわけではない。
 それは観光地としての立ち位置だけではなく、遺産そのものの存続についても言えるようだ。
 
 “危機遺産”という言葉がある。
 文字通り存続の“危機”が取りざたされている世界“遺産”のこと。
 本書が取り扱うテーマは、消滅の危機がある世界遺産である。

 世界遺産消滅という危機の背景には、様々な事情があるという。
 例えばバーミヤンの文化的景観と古代遺跡群は、タリバンにより爆破されたが、これは分かりやすい事例である。
 このような、露骨な破壊のほか、盗掘などの手段による略奪や都市化の進行による破壊、過度の修復、観光の大衆化、放置、気候変動など、本書は世界遺産の消滅危機を豊富な写真を盛り込んで紹介する。

 極端な破壊は特殊かもしれないが、観光の大衆化なんか、現在の日本でも大きな問題になっている。
 インバウンドとか言って外国人観光客と誘致に躍起になったコロナ禍前、そしてコロナ明けの現在のインバウンド復活。
 観光地には人が溢れ、そこの住民の生活に支障がきたすようになってきた。
 そして、人々を呼び寄せている世界遺産そのものにも悪影響を及ぼすように。

 過度の修復が世界遺産の本質的価値を傷つけることは、大きな問題ではある。
 しかしながら、下手な修復が報じられ、その結果、多くの人たちを呼ぶことになるという現象もあるようだ。
 ある意味、面白いモノを見ることができるからね。
 そもそも世界遺産は長い時間の経過とともに継承されてきたもの。
 その過程でいろいろと修復が繰り返されてきたはず。
 今に伝わる形状が、本来目的としたものと同一とは限らない。
 
 文化遺産を適切に継承していくことは、相当な困難を伴う。
 だからこそ、何らかの制度で価値づけをして、守ろうとしているのではないだろうか。
 そもそも遺跡なんて、かつて人々が放棄した場所で、それを後世に掘り返して顕彰されたもの。
 かつてその場所が放棄されたということは、まぎれもない事実である。
 世界遺産という制度そのものが、なんだか無理やりな価値づけのうえで成り立っているのかもしれない。
 世界遺産に登録されたことで、そこには新たな価値が付与された。
 だから、その価値が維持できなさそうになると、危機遺産と騒ぎ立てる。
 その反応は、実のところ行き過ぎなものなのかもしれない。 
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休蔵
休蔵 さん本が好き!1級(書評数:451 件)

 ここに参加するようになって、読書の幅が広がったように思います。
 それでも、まだ偏り気味。
 いろんな人の書評を参考に、もっと幅広い読書を楽しみたい! 

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