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ときのき
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奇怪な謎が読者の鼻面をひきずりまわす、異形の本格ミステリ
 神々精医科大学附属病院の食堂でアルバイトをしている文哉は、偶然、客としてきた開放病棟の女性患者がスマホ専用ゲームで同じトーナメント戦をプレイしたユーザー“ayakayaka”であることに気が付く。すぐに意気投合する二人。しかし、彼女が精神科医の象山から脅迫されているらしいと知った文哉は、ある行動に出ることになり――

 上述の筋は実はプロローグの半分程度を紹介したもので、あらすじとすらいえない。ここから先は、意外/意外な展開が続き、作品の描く景色がめまぐるしく変わっていく。登場する誰もが初めに思われていたような人物ではなく、状況もまた欺瞞の薄膜に幾重にも覆われている。そして、このどんでん返しの満載されたジェットコースターが疾走しつつ読者を連れていく先は、なんと恒例の不可能犯罪と多重解決の特殊設定ミステリの世界だ。
 白井作品だからそうなるのだろう、とは予想していても、どこでどう本格ミステリに接続するのかなかなか読めない。個人的には、この辺りがもっともスリリングなくだりだったかもしれない。
 
 破綻しそうでいながら、危ういところで常にバランスをとってみせる著者の面目躍如たる一篇だ。リアリズムから遠く離れた知的遊戯性の世界。そこでは“家族”も“アイデンティティ”も執拗なグロテスクなイメージも、全てサプライズとロジックに奉仕するためのパズルのピースとして扱われる。非人間的でアクロバティックな飛躍する論理の軌道が、ビザールでいびつな犯人当てミステリとして丁寧に回収されていくのはいつもながら不思議な読み心地だ。(特に、○○の××××による△△のロジックは秀逸に感じた)
 
 やりたい放題やった後の、八方破れなようでいて本格ミステリとしての様式へみせる謎の義理堅さ、人倫に外れながらも奇妙に理に落ちた結末も印象的だ。口に入れるまで味のわからない闇鍋のような作品。箸をつける勇気と好奇心の持ち主であれば、一口どうぞ。
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ときのき
ときのき さん本が好き!1級(書評数:137 件)

海外文学・ミステリーなどが好きです。書評は小説が主になるはずです。

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