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休蔵さん
休蔵
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弥生時代の北部九州を主要フィールドとし、青銅器生産について議論を深めた1冊。銅鐸や銅剣、銅鉾といった主要器種ではなく、あまり取り上げられることのない地味な青銅器や鋳型を分析対象としている点が特徴的。
 新たな発掘調査成果は、学説を覆す場合がある。
 その一方で、従来の説を補強することもあるはず。
 いずれにせよ、新発見の情報を分析する作業を行わない限り、宝は持ち腐れとなってしまう。
 本書は新しい発掘資料の解析を通じて弥生社会のなかの青銅器生産の位置付けを試行したものである。

 本書は全4章9節からなる。
 ねらいを示した第1章のほかは全てすでに発表した論文をまとめたものである。
 当然のことながら論旨にブレが生じておらず、本書をまとめるためにコツコツと一貫した研究姿勢で論文を発表してきたように思われた。

 さて、本書は弥生時代の北部九州を主要フィールドとし、青銅器生産について議論を深めた専門書である。
 青銅器の生産技術は朝鮮半島から伝来してきたもの。
 そのこと自体は資料が蓄積してきた今日でも変更は求められないようだ。
 ただし、すべての技術が日本に定着するわけではなく、一定期間のみ用いられて廃れた技術もあるという。
 北部九州では複雑な造形を可能とする粘土製の鋳型による技術が早々に廃れたというが、そのことは北部九州の弥生人が青銅器生産さらには青銅器にどのような思いを抱いていたかを推し量るヒントになると考えられる。
 北部九州に入ってきた青銅器の生産技術は東方へ波及する。
 その状況を西日本さらには関東地方で出土している型鏡や有鉤銅釧、巴形銅器を対象に分析している。
 銅鐸や銅剣、銅鉾といった王道とも言えるような青銅器とは異なる品々を対象に分析している点が興味深い。

 さらに、石製鋳型についても徹底的に分析する。
 青銅器はあらゆる集落で生産できるわけではなく、一大生産地があり、それに次ぐ生産地があって、そこから製品が配布されていたようである。
 同様に鋳型自体にも生産地があったという。
 それは鋳型として適している石材が限られているという地質的な条件が大きく響いてくる。
 
 博物館には弥生時代の青銅器が展示されていることがあり、銅鐸や銅鉾などはそのインパクトの強さから、“見た”という印象だけを抱いて博物館を後にしたこともしばしばだった。
 でも、本書は地味な青銅器や鋳型などを主対象としながら、生産と社会との関わりについて分析を深めている点が特徴的であった。
 地味な考古資料もしっかり観察しようと思った。
 稲作や墳墓、青銅器を用いた祭祀、石製・青銅製・鉄製武器を用いた戦闘など、弥生時代のイメージはさまざまだろうが、地味な青銅器生産関連資料を分析することで見えてくる世界があるのだと痛感した。
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休蔵
休蔵 さん本が好き!1級(書評数:451 件)

 ここに参加するようになって、読書の幅が広がったように思います。
 それでも、まだ偏り気味。
 いろんな人の書評を参考に、もっと幅広い読書を楽しみたい! 

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