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ぱるころ
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「思い出せる詩があるということは、有事に際して履きかえることができる靴を持つようなことだと思う。」(解説より)
詩人 石垣りん(1920-2004)にとって、詩は「実用のことば」だった。幼い頃から詩に親しみ、銀行員を定年まで勤め上げる傍ら詩作を続けた石垣りんは、詩の中のことばをどのように捉え、自分のものにしてきたのだろうか。
この本では、石垣りんが茨木のり子や中原中也をはじめとする53人の詩を選出して、自身と作品との関わりなどをエッセイに綴っている。


心にスッと入ってくる詩もあれば、理解するのが難しい詩もある。その中で、私の心に強く訴える一篇があった。

『森の若葉』 金子光晴
「なつめにしまっておきたいほど
いたいけな孫むすめがうまれた

新緑のころにうまれてきたので
「わかば」という 名をつけた

へたにさわったらこわれそうだ
神も 悪魔も手がつけようない

小さなあくびと 小さなくさめ
それに小さなしゃっくりもする

君が 年ごろといわれる頃には
も少しいい日本だったらいいが

なにしろいまの日本ときたら
あんぽんたんとくるまばかりだ

しょうひちりきで泣きわめいて
それから 小さなおならもする

森の若葉よ 小さなまごむすめ
生まれたからにはのびずばなるまい」


最後の一行の、厳しさに込められた強い願いを、石垣りんは「人生の応援歌」だという。
『生まれたからにはのびずばなるまい』
いつか、この一行に厳しさだけでなく優しさを見出せるよう、自分にできる精一杯の努力をして人は生きていくべきなのだろう。


「思い出せる詩があるということは、有事に際して履きかえることができる靴を持つようなことだと思う。」
というのは、渡邊十絲子(詩人)による解説の中の一文だ。

人生における「有事」は、意外と多いのかもしれない。必要な言葉は、そのときどきで変わっていく。初読では理解できなかった詩でも、ある一行が頭から離れなかったり、置かれた状況や気持ちに変化が起きたとき、意味に気がついたりする。

石垣りんは、詩の持つ力をしっかりと自分の中に落とし込み、「実用のことば」にした。副題「くらしの中によみがえる」というような効果は、この本を読んだだけでは得られない。「あなたはあなたの読み方で」というスタイルが、石垣りんの魅力でもあるようだ。

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ぱるころ
ぱるころ さん本が好き!1級(書評数:147 件)

週1〜2冊、通勤時間や昼休みを利用して本を読んでいます。
ジャンルは小説・エッセイ・ビジネス書・自己啓発本など。
読後感、気付き、活かしたい点などを自分なりに書き、
また、皆さんからも学びたいと考え参加しました。
よろしくお願いします。

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この書評へのコメント

  1. くにたちきち2024-05-27 18:41

    『図書新聞』への転載、おめでとうございます‼ 詩集の批評の転載は、珍しいと思います。今後のご健筆を期待しています。

  2. ぱるころ2024-05-27 20:43

    くにたちきちさん、コメントありがとうございます!
    ペースは遅いですが、自身で感じた本の魅力を少しでも伝えられるよう、これからも書いていこうと思います^ ^

  3. No Image

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