休蔵さん
レビュアー:
▼
奈良県明日香村の高松塚古墳は彩色壁画で有名だが、その壁画が危機的状況にあったこともよく知られていよう。本書は危機的から始まった発掘調査成果を噛み砕いて解説した概説書である。
 奈良県明日香村に所在する高松塚古墳における色鮮やかな壁画の発見は、相当の衝撃をもって報じられた、らしい。
その時にはまだ私はこの世に生を受けていなかったので、当時の生のリアクションは分からないが、衝撃の度合いはなんとなく想像がつく。
そんな私も高松塚古墳の壁画にカビが発生し、保存が危ういという報道にはリアルタイムで触れた。
国による管理というのに、「なんたる杜撰さっ!」と憤りながらも、古墳のなかで繊細な彩色壁画を適切に管理することは、そもそも不可能だったのではとも思った。
結果、高松塚古墳は解体され、壁画の保存処理が行われた。
近在するキトラ古墳もまた壁画を有する。
高松塚古墳のような人物画は確認されていないものの、四神像は鮮やかで、世界最古の天体図もあるとのこと。
ここの壁画もまた剥がれ落ちそうになるなど、保存が難しい状況で、古墳外での保存修理が進められている。
7世紀終わり頃に築かれた壁画を持つ高松塚古墳。
壁画の危機ということで、全面的な発掘調査が行われた。
そのため、古墳の築造過程を詳細に把握することができたという。
発掘調査は遺跡の破壊でもあると聞いたことがあるが、破壊をしないと分からないことがたくさんある。
破壊の過程でいかに細やかに情報を収集するかが重要ということだろう。
高松塚古墳の築造は、まず測量技術を駆使して自然地形を造成するところからはじまる。
もちろん、石室石材を掘削して加工し、築造地に運ぶことも同時進行的に行われたはず。
古墳の仕上げは石室を築いた後で、墳丘は2段階に渡って築かれていたことが判明した。
石室の内面は漆喰で塗り固め、そこに壁画を描く。
本書では壁画の描き方だけにとどまらず、顔料についても詳細に検討する。
そして、高松塚古墳の完成においては、寺院造営の現場で働く技術者や画工が、臨時工のような形態で徴発されて参画していた可能性が指摘された。
さらに、本書は古墳の立地や墳形、墳丘規模、石室構造、壁画そして副葬品などを多角的に検討し、被葬者像にも迫っている。
古墳の被葬者に迫ることはなかなか難しいところだが、7世紀末という時期的な条件と、飛鳥地域という条件が、それを可能にしたのであろう。
そして、その推論には首肯させられた。
その人物については、ここでは伏せておこう。
連日のように発掘調査成果が報道される。
発掘調査の新聞記事を集めた月刊誌が刊行されるほど盛況な分野だ。
最古、最大といった点のみに焦点が当てられることもあれば、○○県で初出土という切り口も多い。
もちろん、高松塚古墳やキトラ古墳のように重要な遺跡が危機に瀕していることが報じられることもある。
しかし、最古、最大、○○県で初出土という1回の報道で遺跡の実像が理解できるはずがない。
本書は報道後に地道な研究を重ねた成果を、分かりやすく概説している。
読者の気を引くような報道の文言に惑わされず、遺跡全体の地道な分析を追跡するようにしたい。
その時にはまだ私はこの世に生を受けていなかったので、当時の生のリアクションは分からないが、衝撃の度合いはなんとなく想像がつく。
そんな私も高松塚古墳の壁画にカビが発生し、保存が危ういという報道にはリアルタイムで触れた。
国による管理というのに、「なんたる杜撰さっ!」と憤りながらも、古墳のなかで繊細な彩色壁画を適切に管理することは、そもそも不可能だったのではとも思った。
結果、高松塚古墳は解体され、壁画の保存処理が行われた。
近在するキトラ古墳もまた壁画を有する。
高松塚古墳のような人物画は確認されていないものの、四神像は鮮やかで、世界最古の天体図もあるとのこと。
ここの壁画もまた剥がれ落ちそうになるなど、保存が難しい状況で、古墳外での保存修理が進められている。
7世紀終わり頃に築かれた壁画を持つ高松塚古墳。
壁画の危機ということで、全面的な発掘調査が行われた。
そのため、古墳の築造過程を詳細に把握することができたという。
発掘調査は遺跡の破壊でもあると聞いたことがあるが、破壊をしないと分からないことがたくさんある。
破壊の過程でいかに細やかに情報を収集するかが重要ということだろう。
高松塚古墳の築造は、まず測量技術を駆使して自然地形を造成するところからはじまる。
もちろん、石室石材を掘削して加工し、築造地に運ぶことも同時進行的に行われたはず。
古墳の仕上げは石室を築いた後で、墳丘は2段階に渡って築かれていたことが判明した。
石室の内面は漆喰で塗り固め、そこに壁画を描く。
本書では壁画の描き方だけにとどまらず、顔料についても詳細に検討する。
そして、高松塚古墳の完成においては、寺院造営の現場で働く技術者や画工が、臨時工のような形態で徴発されて参画していた可能性が指摘された。
さらに、本書は古墳の立地や墳形、墳丘規模、石室構造、壁画そして副葬品などを多角的に検討し、被葬者像にも迫っている。
古墳の被葬者に迫ることはなかなか難しいところだが、7世紀末という時期的な条件と、飛鳥地域という条件が、それを可能にしたのであろう。
そして、その推論には首肯させられた。
その人物については、ここでは伏せておこう。
連日のように発掘調査成果が報道される。
発掘調査の新聞記事を集めた月刊誌が刊行されるほど盛況な分野だ。
最古、最大といった点のみに焦点が当てられることもあれば、○○県で初出土という切り口も多い。
もちろん、高松塚古墳やキトラ古墳のように重要な遺跡が危機に瀕していることが報じられることもある。
しかし、最古、最大、○○県で初出土という1回の報道で遺跡の実像が理解できるはずがない。
本書は報道後に地道な研究を重ねた成果を、分かりやすく概説している。
読者の気を引くような報道の文言に惑わされず、遺跡全体の地道な分析を追跡するようにしたい。
お気に入り度:









掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
 ここに参加するようになって、読書の幅が広がったように思います。
 それでも、まだ偏り気味。
 いろんな人の書評を参考に、もっと幅広い読書を楽しみたい! 
この書評へのコメント
- ゆうちゃん2024-04-11 16:14高松塚古墳の発見当時は僕は小学生でした。その頃、小学生の間では、切手収集が大流行していましたが、僕もそれに染まった思い出があります。高松塚古墳発見に伴い記念切手が発行されました。切手の趣味もあって自分にも印象深い出来事でしたが、考古学的な意味をわかっていたかどうかは怪しいものです。 
 https://www.kitteya-marumate.com/view/item/000000001664
 画像では葉書用20円、封書用50円がありますが、それぞれ+5、+10円は郵便代と別にこの切手を買った額の+5円、+10円を古墳の保存活動に寄付すると言う意味です。切手で寄付金付きというのは、そう頻繁とは言えないので、こうしたものを発行したこと自体、考古学的な価値が高いと言う証拠だと思います。それにしても中を開けたらかびていたとか、作業員が誤って傷つけたなとと言う記事を読んで、自分もがっかりしました。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。
 - コメントするには、ログインしてください。 
書評一覧を取得中。。。
- 出版社:法蔵館
- ページ数:0
- ISBN:9784831877697
- 発売日:2023年11月24日
- 価格:2200円
- Amazonで買う
- カーリルで図書館の蔵書を調べる
- あなた
- この書籍の平均
- この書評
※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。








 
 













