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ぱるころ
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「昨日を愛する生き物」のために、飼い主ができることは何だろう…
『さいごの毛布』…さいご、というのは「最後」ではなく「最期」。老犬ホーム「ブランケット」は、事情があって飼い主のもとで最期を迎えることのできない高齢犬を預かる施設だ。

主人公の智美は内気な性格のため就職活動がうまくいかず、友人の紹介によって「ブランケット」で働くことになった。他人との関わりを避けてきた生活から一転、住み込みで15匹もの犬たちを世話するという想像もできない日々が始まる。

頑固で正義感の強い一面を持つ智美は、働き始めて間もないうち、犬たちが預けられた理由を聞いては腹を立てていた。しかしオーナーである麻耶子から、「料金をいただいて預かっているのだから、飼い主のことを悪く言ってはいけない」と教え込まれる。

智美がやがて気づいたのは、身勝手な理由も致し方ない事情も、犬たちにとっては関係ないということだった。施設に預けられることは、犬たちにとって「大好きな飼い主が突然いなくなること」。
犬をはじめとする多くの動物は、昨日が平和だったら、昨日と同じ今日を求めるものだ。

智美は犬たちとの生活を通して、今までの自分が思い込みで物事を考えていたことを知る。さらに施設の周辺では気になる事件も起こり、オーナー 麻耶子の過去や、もう一人の従業員 碧が抱える秘密も明らかになっていく。


読者をぐいぐい引き込むというより、通り過ぎた後でじっくりと納得感を得るような、静かな物語だった。高齢犬を預かる施設なので悲しい出来事もあるが、一つの命が消えても施設の日常ががらりと変わることはない。

『死を悲しむのは愛した者たちの権利なのだから』
…いくつかの別れを経て、自然にゆっくりと伝わってくる智美の変化に心がじんわりと温まった。


動物とお別れをしたとき、もっとしてあげられることがあったのではと最期の姿ばかり頭に浮かんでしまう。けれど、動物が求めるのは特別なことではなく「昨日と同じ今日」。その中に小さな幸せや喜びがあったことを、勝手だけれど信じていたい。
悲しみと向き合った後は、一緒に過ごした「いつも通りの一日」をずっとずっと覚えておこう…そんなふうに思った。

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ぱるころ
ぱるころ さん本が好き!1級(書評数:147 件)

週1〜2冊、通勤時間や昼休みを利用して本を読んでいます。
ジャンルは小説・エッセイ・ビジネス書・自己啓発本など。
読後感、気付き、活かしたい点などを自分なりに書き、
また、皆さんからも学びたいと考え参加しました。
よろしくお願いします。

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