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ときのき
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蜃の吐く夢の楼閣~華文版密室キングダム
 華文ミステリ界の【密室の王】こと、孫沁文による初長編だ。湖のほとりの豪壮な館に住まう富豪一族、陸家にて連続する血の惨劇。殺人の舞台はどれも、出入り不可能な密室であった。同家に寄宿する新人声優の鐘可は、否応なくこの陰惨な事件に巻き込まれていく。代々伝わる秘められた習わし、犯行現場に置かれたへその緒と錆び釘、人を死に至らしめる“嬰呪”とは何か。まごうことなき伝統的本格探偵小説の世界に、日本や欧米とも異なった、中国の土俗的なホラー要素が加味されている。

「(探偵役が)私物のスケッチブックをめくり、その一ページを全員に見せた。そこにはトリックの実演イラストが描かれていた。分かりやすい解説画像に全員が言葉を失った……」


 数々の密室の謎が解き明かされる時、読者もまた登場人物同様言葉を失うだろう。着想の奇抜さでは島田荘司にも劣らない。名探偵の論理的な推理が、作中の現実を怪奇小説からファンタジーへと飛翔させる様は圧巻だ。
 また、現代中国人の日本(や、他の国々の)文化受容が観察できるという面でも興味深い作品だ。登場する刑事は“織田裕二似”であり、オタクは特に注釈なく涼宮ハルヒのキーホルダーをつけ、韓国ドラマや海外ミステリへの言及もしばしばある。現代を活写しようなどと殊更に試みているわけではない浮世離れした本格探偵小説の世界であるからこそ、かえってその無造作な描写から現在の中国人(少なくともその一部の)の意識が垣間見えるようだ。
 元気のいい、読みどころの多い作品だ。
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ときのき
ときのき さん本が好き!1級(書評数:137 件)

海外文学・ミステリーなどが好きです。書評は小説が主になるはずです。

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