書評でつながる読書コミュニティ
  1. ページ目
詳細検索
タイトル
著者
出版社
ISBN
  • ログイン
無料会員登録

ぽんきち
レビュアー:
インド発社会派エンタメ誘拐ミステリ
主人公ラメッシュは、絶望的な状況にいる。
雇い主にあたる若者ルディとともに誘拐され、指を1本切り落とされてしまったのだ。
なぜそんな状況になったのかといえば。

元々、ラメッシュは貧困層の生まれだった。母はラメッシュを産んだときに亡くなり、父はチャイを売って日々を凌いでいた。チャイに入れるスパイスを挽くのはラメッシュの仕事。父は暴力的で時に女を連れ込んだりしていた。貧困の中、このまま父と同じような大人になるのかと諦めていたラメッシュを白人修道女が救い出した。
彼女のおかげでラメッシュは教育を受けることができたのだ。
それで成功して幸せになった、というのならよいのだが、ことはそれほど簡単ではない。

結局のところ、彼は修道女が望んだような素晴らしい人物にはならず、けれども頭はよかったために「教育コンサルタント」となった。肩書は立派だが、要は替え玉受験の請負である。金持ちの出来の悪いぼんぼんの代わりに大学受験をして、親の望む大学に放り込んでやるのが仕事だ。
それでそこそこの金を得ていればよかったのだが、ラメッシュは少しやり過ぎた。
その年、ルディの代わりに受けた全国共通試験で、1位を取ってしまったのだ。
さあ大変。ルディは一躍有名人となり、クイズ番組のスターとなった。しかし、もちろん、ルディ一人の力ではその座を保てはしないのである。ラメッシュは彼のマネージャーと称して何かと彼に知恵をつける黒子となる。
収入は格段に上がったが、同時にビジネスの危険度も段違いに上がった。まぁそれとて綱渡りで何とかこなせなくもなかったのだが、今度はルディがしくじり、とある筋から恨みを買った。
それが最初の誘拐事件につながっていくのだが、誘拐も1つでは終わらなかった。
あっちへ転び、こっちへ転がり、行先の見えない大騒ぎを、ラメッシュが、ややシニカルなユーモアを交えて語っていく。
さてこの事件の顛末や如何に。

タイトルの「ガラム・マサラ」はインドのミックススパイスを指す。ガラムが「熱い/辛い(hot)」、マサラが「混ぜ合わせる」を意味する。本書原作は英語で書かれており、出版時のタイトルは”How to Kidnap the Rich”なのだが、元々は”Garam Masala”のタイトルがあてられていたという。邦題はこちらを採っている。ラメッシュが父の下でチャイ用のスパイスを用意させられていたことを思い出させるとともに、さまざまな要素が混ぜ合わされた本作自体を連想させるようでもある。
ミステリともクライムノベルとも言えそうなストーリーの根底には、インドの階級社会や受験戦争などの時事問題がある。下層階級からのし上がっていくのは容易なことではなく、だが一方では堕落した金持ちの暮らしがある。ラメッシュは事件の過程でバラモン階級の女性に恋をし、一時は甘い夢も見るのだが、さて、この恋は実るだろうか。階級の壁を超えるのは、想像以上の難事のようである。

著者はこれがデビュー作。
解説によれば、インド系の作家によるミステリは近年、さまざま出版されてきているとのこと。これまでのところ、海外向けに翻訳されているのは英語で書かれたものが大半のようだが、そのうちヒンディー語のものが脚光を浴びる日も近いかもしれないそうだ。それはそれでまた毛色が違っておもしろいかも。
お気に入り度:本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント
掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
ぽんきち
ぽんきち さん本が好き!免許皆伝(書評数:1827 件)

分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。

本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。

あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。

「実感」を求めて読書しているように思います。

赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw

読んで楽しい:7票
参考になる:21票
あなたの感想は?
投票するには、ログインしてください。

この書評へのコメント

  1. No Image

    コメントするには、ログインしてください。

書評一覧を取得中。。。
  • あなた
  • この書籍の平均
  • この書評

※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。

『ガラム・マサラ!』のカテゴリ

フォローする

話題の書評
最新の献本
ページトップへ