ぱるころさん
レビュアー:
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「ほんとうの神様なら、お父さんのことをきっと許してあげられたのに…」大人たちの信仰に翻弄された少女は、成長してどこへ向かうのか。
コロナ禍の大学院生活、就職活動、恋人や家族との関係…様々なテーマを盛り込んだ作品のようだが、やがて奥から現れるのは、「宗教観」という大きなテーマだ。
主人公の春は大学院生。キリスト教を扱った日本文学作品を研究している。現在取り組んでいる論文では、『銀河鉄道の夜』を基に宮沢賢治の宗教観について掘り下げたいと考えている。
春には社会人の恋人 亜紀君がいる。卒業を待って結婚したいと言われているが、春には家庭というものが想像できない。亜紀君にもまた、春に隠している過去が…
春の心のつかえは何なのか。その正体が、同じ研究室に所属する篠田君と売野さんや、春が短期間のアシスタントを務めることになった作家 吉沢さんとの会話で明かされていく。
春が幼い頃、父親は新興宗教にのめり込み、母親は仕事のため留守がちだった。春が救いを求めたはずの叔母はまた別の宗教に入っており、春の父親に改宗を迫った。その後、春と母親を残して父親は失踪。そんな状況下で、幼い春はあまりに無力だった。
『お父さんは可哀想。弱いだけで、可哀想だった。本当の神様ならきっと許してあげられたのに。ほんとうの、ほんとうの神様なら。』
春は「お父さんの神様」に代わって、父親を許そうとしていた。そうすることで自分を保ってきたのだ。
神様が一人なら、争いは起こらなかった…春はずっとそう思っていた。けれど、そうではないことが、この世界の素晴らしさでもある。
『自分の神様を信じることと、他者に違う神様がいることは、矛盾しない。他者が在る、というのは、そういうことだから。』
春がこの考えに至り、本当の意味で強くなる過程が、この物語の核心である。
そして、春の手元には『銀河鉄道の夜』と同じく未完の作品がある。作家を目指していた父親が残した、書きかけの小説だ。春はずっとその続きを書こうとしていた。
しかし、書くべきなのは「自分の物語」。そう気づくと、大切な恋人との出会いのシーンを書き始め、何度も何度も書き直す。記憶の中を行ったり来たりして紡ぐ言葉に、私は何ともいえない愛おしさを感じた。
文庫版あとがきによると、ラストは単行本から少し変更を加えたという。淡々としたストーリー展開の奥から主人公の敏感な心の動きを感じるこの作品は、著者の代表作『ナラタージュ』を思い起こす。『銀河鉄道の夜』『ノルウェイの森』といった名作が作中に登場し、物語とリンクしていくところも新しい魅力となっている。
主人公の春は大学院生。キリスト教を扱った日本文学作品を研究している。現在取り組んでいる論文では、『銀河鉄道の夜』を基に宮沢賢治の宗教観について掘り下げたいと考えている。
春には社会人の恋人 亜紀君がいる。卒業を待って結婚したいと言われているが、春には家庭というものが想像できない。亜紀君にもまた、春に隠している過去が…
春の心のつかえは何なのか。その正体が、同じ研究室に所属する篠田君と売野さんや、春が短期間のアシスタントを務めることになった作家 吉沢さんとの会話で明かされていく。
春が幼い頃、父親は新興宗教にのめり込み、母親は仕事のため留守がちだった。春が救いを求めたはずの叔母はまた別の宗教に入っており、春の父親に改宗を迫った。その後、春と母親を残して父親は失踪。そんな状況下で、幼い春はあまりに無力だった。
『お父さんは可哀想。弱いだけで、可哀想だった。本当の神様ならきっと許してあげられたのに。ほんとうの、ほんとうの神様なら。』
春は「お父さんの神様」に代わって、父親を許そうとしていた。そうすることで自分を保ってきたのだ。
神様が一人なら、争いは起こらなかった…春はずっとそう思っていた。けれど、そうではないことが、この世界の素晴らしさでもある。
『自分の神様を信じることと、他者に違う神様がいることは、矛盾しない。他者が在る、というのは、そういうことだから。』
春がこの考えに至り、本当の意味で強くなる過程が、この物語の核心である。
そして、春の手元には『銀河鉄道の夜』と同じく未完の作品がある。作家を目指していた父親が残した、書きかけの小説だ。春はずっとその続きを書こうとしていた。
しかし、書くべきなのは「自分の物語」。そう気づくと、大切な恋人との出会いのシーンを書き始め、何度も何度も書き直す。記憶の中を行ったり来たりして紡ぐ言葉に、私は何ともいえない愛おしさを感じた。
文庫版あとがきによると、ラストは単行本から少し変更を加えたという。淡々としたストーリー展開の奥から主人公の敏感な心の動きを感じるこの作品は、著者の代表作『ナラタージュ』を思い起こす。『銀河鉄道の夜』『ノルウェイの森』といった名作が作中に登場し、物語とリンクしていくところも新しい魅力となっている。
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週1〜2冊、通勤時間や昼休みを利用して本を読んでいます。
ジャンルは小説・エッセイ・ビジネス書・自己啓発本など。
読後感、気付き、活かしたい点などを自分なりに書き、
また、皆さんからも学びたいと考え参加しました。
よろしくお願いします。
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- 出版社:文藝春秋
- ページ数:0
- ISBN:9784167920951
- 発売日:2023年09月05日
- 価格:748円
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