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献本書評
休蔵さん
休蔵
レビュアー:
東郊住宅社が営むトーコーキッチンを紹介する本書は、業界の常識にとらわれない柔軟性や様々な分野に足を踏み入れて世界観を広げることの大切さを教えてくれた。1つの成功例の紹介に留まらない影響力を持つ1冊。
 学生時代、最初の2年間は寮生活だった。
 敷地内に複数の寮が立ち並び、その傍らに平屋建ての小さな食堂があった。
 アルバイトの学生が主力となったその食堂は、寮生活をさせる親にとって安心材料だったらしい。
 でも、入寮した最初の夕食が、食堂での最後の食事となった。
 量はてんこ盛りだった。
 育ち盛りの男子学生にはうってつけだ。
 値段も安く抑えられていて、これも申し分なし。
 ただ、問題は味である。
 びっくりするぐらいの味だった。
 超満席の食堂で、ガツガツ頬張る他の寮生を見て信じられない気持ちになったことを覚えている。

 一人暮らしと食の問題は切っても切り離せないもの。
 その問題は、親にとっての方がより大きな心配の種だ。
 せめて食の心配だけでもなくなれば…という問題を鮮やかに解決してくれるのが東郊住宅社が運営するトーコーキッチンのサービス。
 
 広告業界から不動産業界に転職した東郊住宅社の2代目は、入居者向け食堂、トーコーキッチンを始める。
 朝食は100円で、それ以外は500円でおいしい食を提供するというもので、まさしく採算度外視の企画。
 もともと入居者本位のサービスを心がけていた東郊住宅社。
 休業は年末年始の4日のみで、鍵の紛失や漏水といった緊急事態に24 時間365日対応。
 その不動産サービスに、なぜか食堂サービスを加えた2代目。
 トーコーキッチンの休業も年末年始の4日間のみで、8時から20時までいつでも食事を提供するスタイル。

 トーコーキッチン開業に結びついたきっかけは、2代目がいつも頭を悩ませていた3つの課題。
 すなわち、
 ①男子学生のご家族による食事付き学生マンションに対する需要の高まり
 ②刻一刻と進む物件の経年劣化と空室増加による家賃下落傾向
 ③物件やオーナーに依存せずに1800室すべての管理物件の資産価値を一気にアップさせる裏技
 来る日も来る日もぼんやりと考え続けたこの3つの課題に対しての解決策は、突然に舞い降りたという。
 ただ、ひらめきを形にしていくには相当の苦労があっただろう。
 その推進に利益を求める気持ちがなかった点が成功に結び付く主要な要因の1つだったのではないか。
 
 不動産屋さんが食堂経営を行い、不動産業にフィードバックさせるという荒業は、不動産業ひと筋という経歴では発想すら及ばなかったと思う。
 広告業という他業種に従事していたからこそ、斬新極まりない発想が舞い降り、それを実現できたのであろう。
 就職し、一定の年月が経過すると、その業種の雰囲気に自らが同化してしまいがちだ。
 政治家は政治家らしい顔つきになり、そんな雰囲気を帯びてきて、らしい態度をとるようになることは、マスメディアを通じて多くの人が感じているのではないか。
 特定の環境にだけ身を置くと、斬新なアイデアを発想することすら難しい。
 業界のぬるま湯につかることに甘んじるのではなく、自分のなかに様々な世界観を醸造させておく努力をすることが大切だと思った。
 トーコーキッチンという取り組みは、そんな方法の大きな成功例であり、可能性を教えてくれる好例とも言えよう。

 
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休蔵
休蔵 さん本が好き!1級(書評数:451 件)

 ここに参加するようになって、読書の幅が広がったように思います。
 それでも、まだ偏り気味。
 いろんな人の書評を参考に、もっと幅広い読書を楽しみたい! 

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