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たけぞう
レビュアー:
ソビエトで弾圧された作家。
著者のプラトーノフは、知る人ぞ知る存在なのでしょう。書誌情報で気になって手に取りましたが、基礎知識がなさすぎて充分楽しめませんでした。本著の最後に訳者あとがきがあり、時代背景がしっかりまとめられています。まずはそれを読んでから、本文に進むことをお勧めします。

プラトーノフ。モスクワから南へ550km離れたヴォロネージ市の生まれです。干ばつが繰り返し発生する土地で、著者の本職は土地改良事業の技術者です。よくしようといくら頑張っても、政府の無責任な政策とそれに反発する農民の反乱で、都市はどんどん疲弊していきます。そんな環境が、著者の小説を書く原動力となったのです。

土地改良の専門家だからこそ、思うところもあったのでしょう。思うような技術職にありつけず、徐々に作家活動へと重心が移っていったようです。三十一才のときに書いた作品が、とうとうスターリンの目に止まってしまいました。雑誌や新聞を通じた弾圧が始まってしまったのです。

どうすれば掲載されるのか。発行にこぎつけるには。そのころ、作家に専念していたプラトーノフは、知恵をしぼって作品を書き続けます。ポトゥダニ川は、そんな中で出版された一冊なのです。苦心の作が実った一冊ですが、すぐに相次ぐ批判記事にさらされてしまうのです。

当時のソビエトでは、粛清された作家も多かったのです。プラトーノフは、1951年に亡くなるまで作品を書き続けた稀有な人です。スターリンが1953年に死去してから雪解けが始まり、ペレストロイカで一気に評価が高まったということです。

前置きばかりになってしまいました。でも、理不尽な中で書かれた作品という前提を知らなければ、きっとかすかなサインを見落とし続けてしまうのです。

表題作のポトゥダニ川。ブルジョワを批判する文章が少しあり、違和感を持ちました。中篇の、たくさんの面白いことについての話では、ボリシェヴィキというキーワードがあり、調べもせずに突き進んでしまいました。

もしプラトーノフが弾圧を受けていたことを知っていれば、もう少し慎重に読めたのかもしれません。人間が人間らしく、人を愛し、助け合って生活をよくしていくという、当たり前のことが満足にできなかったソビエト時代。物語が実生活を映しこんでいると知った時、ソビエトの闇を感じました。

読み手を選ぶ作品です。作品単独で評価できるものではありませんので、星をつけるのはやめておきます。
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たけぞう
たけぞう さん本が好き!免許皆伝(書評数:1471 件)

ふとしたことで始めた書評書き。読んだ感覚が違うことを知るのは、とても大事だと思うようになりました。本が好き! の場と、参加している皆さんのおかげです。
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この書評へのコメント

  1. かもめ通信2025-06-26 06:41

    確かに初めてのプラトーノフとしては、お薦めできないかも?と言いつつ、
    プラトーノフにしては“おさえぎみ”の作品集なので、
    他よりはとっつきやすいかもとも思ったり(^^ゞ

    ルナアル、リルケと一作ずつ収録されている本ですが、
    こういうのなら読みやすいかも。↓

  2. たけぞう2025-06-26 15:04

    >かもめ通信さん
    背景が重要な作品だと、読後に知ったのが失敗でしたので、お伝えしたかったのです。そうですか、やはり他はもっと激しいんですね。またチャレンジするかもです。

  3. かもめ通信2025-06-26 19:12

    今読んでいる本でちょうどプラトーノフ論にさしかかったところなのですが、こんな一文が目にとまりました。
    「プラトーノフの小説は、背景を従えた主人公を描くのではなく、むしろ背景のほうが主人公を貪り喰らうところを描きます」
    巧いこと言うなあと思ってしまいましたw

  4. No Image

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