書評でつながる読書コミュニティ
  1. ページ目
詳細検索
タイトル
著者
出版社
ISBN
  • ログイン
無料会員登録

休蔵さん
休蔵
レビュアー:
本書は、管理する立場の責任を追及されてしまう恐れをおそらくは抱きながら、博物館に収蔵された資料劣化の現状と課題、そして対処法を示したチャレンジングな1冊である。
 「博物館行き」とは「古くなったものや役に立たなくなったもの」を示すような悪い意味で使用されると思う。
 ただ、実際の博物館行きは、資料にとっては必ずしも悪いことばかりではないと思っていた。
 学芸員による手厚い看護を受けながら、たまに人前に展覧され、場合によってはチヤホヤされる。
 手厚い看護を受け続け、表に出てこない資料も数多い。
 「死蔵」だ。
 「死蔵」は活用されず、ただ収蔵されるだけといった意と思っていたが、どうやらそんなうまい話ばかりではないらしく、比喩的な「死」ではなく、本当の「死」を迎えてしまう資料もあるようだ。
 もっとも、それは学芸員に原因があるとは限らないらしい。
 本書は、管理する立場の責任を追及されてしまう恐れをおそらくは抱きながら、現状と課題、そして対処法を示した挑戦的な1冊である。
 
 本書は資料の劣化具合を、原因をもとに大きく10項目に分別し、それぞれの事象を写真で紹介する。
 すなわち、Ⅰ虫の被害、Ⅱカビの被害、Ⅲ光による劣化、Ⅳ湿度による劣化、Ⅴホコリの被害、Ⅵ化学的劣化、Ⅶ経年劣化、Ⅷ材料の性質に由来する劣化、Ⅸ管理に由来する劣化、Ⅹ処置に由来する劣化の10項目である。
 そして、各写真に現況と原因などを記載する。
 決して適当な管理を行ったわけではないはず。
 でも、相当数の資料を適切に保管し続けることは、相当に難しいのだろう。
 
 そもそも資料によって受け入れたタイミング、つまりは保管が始まったタイミングは大きく異なる。
 場合によっては保管開始から100年近く経過している資料もあるだろう。
 その間、保管環境や技術は大きく改善されてきた。
 それは現在進行形で続いている。
 今の保管環境や保管技術であれば、きちんと守り続けられていたものもあるはず。
 それでも経年の劣化には、抑えようのないものもあるに違いない。

 10項目のなかに管理に由来する劣化が入っているところが、何と言うか、潔い印象を持った。
 人間誰しも完璧ではない。
 取扱いのミスで大切な資料を破損させてしまうこともある。
 細心の注意を払っていても、人為的な要因での破損を完全に避けることは無理なはず。
 それを隠さずに提示できるところに、本書の強さを感じた気がした。

 そして、本書には劣化に対する処方箋も掲載されている。
 こちらは素材や原因ごとによる対処法を、上記10項目を示す際に使用した写真をもとに解説する。
 その1 土製品・石製品の劣化
 その2 金造製品の劣化
 その3 木製品・染織品の劣化
 その4 紙や絹資料の劣化
 その5 液浸標本の容器にまつわる劣化
 その6 液浸標本の容器にまつわる劣化
 その7 標本の虫害、カビ害による劣化
 その8 はく製標本に生じる劣化
 その9 骨格標本による劣化
 その10 鉱物標本の劣化
 その11 近現代の資料の劣化-紙資料・画像と映像の記録媒体
 その12 近現代の資料の劣化-教育用掛図・模型

 万が一の対処法をしっかりと考えながら、膨大な件数の資料と日々向き合っている学芸員に迫ることができる1冊と言えよう。
お気に入り度:本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント
掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
休蔵
休蔵 さん本が好き!1級(書評数:451 件)

 ここに参加するようになって、読書の幅が広がったように思います。
 それでも、まだ偏り気味。
 いろんな人の書評を参考に、もっと幅広い読書を楽しみたい! 

読んで楽しい:1票
参考になる:27票
共感した:2票
あなたの感想は?
投票するには、ログインしてください。

この書評へのコメント

  1. No Image

    コメントするには、ログインしてください。

書評一覧を取得中。。。
  • あなた
  • この書籍の平均
  • この書評

※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。

『文化財と標本の劣化図鑑』のカテゴリ

フォローする

話題の書評
最新の献本
ページトップへ