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ぽんきち
レビュアー:
「ラウリ・クースク」とは何者か
舞台はエストニア。
多くの日本人読者にとってはあまりなじみのない国だろう。
バルト三国の1つであり、3つの国のうち、最も北にある。
土地柄、大国であるロシア・ソ連に翻弄されてきた歴史を持つ。
首都タリンは不凍港を擁し、バルト海交通の要衝でもある。
ソ連崩壊に伴って、1991年に独立を回復した。IT先進国として知られている。

主人公ラウリ・クースクは、1977年、ソ連時代のエストニアに生まれた。
幼いころから数字が好きだった。父親が職場で入手した旧式のコンピュータに熱中し、プログラミング言語、BASICを習得。就学前に簡単なゲームを作成することができるようになった。
学校に上った彼はいじめっ子のアーロンに目を付けられ、必ずしも楽しい学校生活は送らなかったが、プログラムの才には目を見張るものがあった。折しも、国の方針で、情報教育に力が入れられるようになり、子供たちは幼いうちからコンピュータに触れる機会を得ていた。
プログラミングのコンペティションに応募した彼は、上位に入賞した。優勝したのは別の少年、モスクワに住むイヴァンだった。小さな村から、町の中学校に進学したラウリは、その学校に編入してきたイヴァンとともに学ぶことになる。絵のうまいカーテャという少女と、ラウリ、イヴァンは友達となり、3人は一緒に多くの時を過ごすようになる。
だが、ソ連崩壊が3人の友情にも暗い影を落とし、輝かしい日々は終わりを告げることになる・・・。

ラウリとは何者か。
「序」では、
ラウリ・クースクは何もなさなかった。
と述べられる。つまり、歴史の中で何かをなし、何かを変えた人物ではないということである。
彼に才はあったが、それは世界を動かすようなものではなかった。
どちらかといえば歴史に翻弄され、漂ってきた人物である。
しかし、私たちの大部分はそうであるとするならば、これは「彼」の物語であると同時に、「私たち」の物語であるのかもしれない。

物語はラウリの目から、そしてラウリを「探して」いる誰かの目から語られる。
その誰かは、途中まで作者自身なのかとも思わされるのだが、実は意外な人物であることがわかる。いや、よく考えれば意外ではないのかもしれないが。

エストニアという国の特異な歴史も興味深い。
なぜ日本人がエストニアを舞台にした物語を書くのか、という疑問は生じうるが、それを言い出すと、極端な話、自身に近い人のことしか書けないということになってしまう。
作者は実際、幼少期にはラウリを思わせるような「数字オタク」の少年だったそうで、ある点では主人公は著者の投影ともいえる。

230ページほど、さして長くない。
しかし、その中に一国の現代史、歴史の波にもまれた人たちのそれぞれの人生、そして少年期のかけがえのない友情のきらめきまで落とし込んだ、なかなかの佳品である。
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ぽんきち
ぽんきち さん本が好き!免許皆伝(書評数:1827 件)

分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。

本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。

あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。

「実感」を求めて読書しているように思います。

赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw

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