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ぱるころ
レビュアー:
何が起こるわけでも、どこへ向かうわけでもない、若者たちと猫たちの自由気ままな日常。
三太郎さんの書評をきっかけに『プレーンソング』を再読しました。ありがとうございます。


この本には『プレーンソング』と続編『草の上の朝食』が収録されている。
『プレーンソング』は1990年の作品だが、私が初めて読んだのは2006年。大学の卒業式を終え、入社式までの間に読もうとこの本を選んだ。

何が起こるわけでもない若者たちの物語だが、舞台はバブル期真っ只中。登場人物たちの気楽さが、これから社会に出る私にとっては羨ましかった。


主人公の「ぼく」は30歳の会社員。彼女と同棲するため広いアパートを借りたが、住み始める前に振られてしまう。その部屋に転がり込んできたのがアキラとよう子と島田の3人。
平日はゆるっと働き休日はほどほどに競馬を楽しむ「ぼく」、いるだけで騒々しいけれど憎めないキャラのアキラ、アキラが連れてきた美人で猫好きのよう子、小説家を目指しているという存在感のない島田。
思いつきで遊園地に行ったら休園日だったり、海に行きたいけれど何も決まらなかったり…そんな、何でもない日常を描く。

そして保坂和志といえば猫。こちらは、野良猫に餌をやりながらの「ぼく」とよう子の会話。
「猫ってさ、ご飯のお礼も言わずに行っちゃうのね」
「食べるの、イコール、お礼なんだよ」
「そっかぁ、じゃあ猫のお礼でいっぱいなんだ」

友人のゆみ子も猫好きで、こんな不思議なことを言う。
「猫って、一匹だけ選び出すのって、できないんだから。猫はつねに猫全体なのよ」


物語の終わりに近づき、車の運転ができるゴンタが加わってようやく5人で海へ出かけた。その様子を表現するのが、14ページに及ぶ会話文。

『「ねえ、海にいると暑くないんだねえ」
「あ、そうね」
「水の上はやっぱり涼しいのかなあ」
「でも涼しくはないよ」
「暑いのがいい感じに感じられるんじゃないか」
(中略)
「戻ろうか」
こんな調子で二日間が過ぎて行った。』

「こんな調子」の適当で自由気ままな時間が流れ、続く『草の上の朝食』では季節が夏から秋へと移り変わってアパートの居候が増えるものの、相変わらず何が起こるわけでもない。
「何もない」を読ませる作品。
「何もない」を書いた作者と、独自の視点からビデオを回して「日常」を撮り続けるゴンタが重なることに、再読して気が付いた。

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ぱるころ
ぱるころ さん本が好き!1級(書評数:147 件)

週1〜2冊、通勤時間や昼休みを利用して本を読んでいます。
ジャンルは小説・エッセイ・ビジネス書・自己啓発本など。
読後感、気付き、活かしたい点などを自分なりに書き、
また、皆さんからも学びたいと考え参加しました。
よろしくお願いします。

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