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ぱるころ
レビュアー:
猫文学というものがあるのならーーそれを証明しようとして本書を書いているわけだがーー(本文より)。「本のなかの猫」との楽しい出会いが詰まった、猫好き&本好きのための本。
『わたしと白猫パンガーバン
われらはどちらも仕事が好き
彼は喜び勇んでネズミを狩り
わたしは夜なべで言葉を追う』

こちらは、アイルランド人修道士が飼い猫を詠んだ詩の書き出しである。四行八連を通して、獲物を狙う愛猫と書物に向かう「わたし」との対比が続く。
そこにハッとする変化が起きるのは、六連目。

『ネズミが巣から走り出てきたとき
おお パンガーの喜びはいかばかりか!
おお わたしの喜びはいかばかりか
心を尽くした疑問を解き明かしたとき』

猫と人間の行動の対比が「喜び」というキーワードで一つになる、愛らしくて魅力的な詩だ。


この詩の全文を掲載している『名作には猫がいる』は、2018年に大英図書館で開催された「本のなかの猫」展をきっかけに誕生した。
猫が登場する世界の名作を、「古典の猫」「児童文学の猫」「ノンフィクションの猫」など九つの章に分けて紹介。巻末の索引で数えてみると、なんと150作超(著者の数では130名超)もの作品に触れていることが分かる。
日本の作品からは夏目漱石『吾輩は猫である』、村上春樹『ねじまき鳥クロニクル』、平出隆『猫の客』などが取り上げられている。


大切な家族の一員である猫、語り手としての猫、悪魔や魔物を連想させる猫など、本に登場する猫のイメージや役割は多岐にわたる。
作品において猫が様々な役割や象徴として登場する理由を、一冊かけて紐解いてゆくのがこの本だ。
猫は古来より人間にとって身近な動物であったが、その身体能力は人間の予測をはるかに上回り、ときに予言めいた行動をとるなど、謎に満ちていた。そんな猫に対する人間の想像力が、本の中の猫を創り出していったのだろうと著者は考えてる。

また、女性の奔放さなどの象徴として猫を使った表現を用いることもあるが、ときには猫の身のこなしに例えて男性登場人物の雰囲気を伝えることもある。後者についてはフィッツジェラルド『グレート・ギャツビー』、ドストエフスキー『罪と罰』からの引用が紹介されており、どちらも、音のないひそやかな動きを表している。


次々登場する作品の中の猫たち。猫好きにとってこの本自体が楽しい読みものであるのは勿論だが、「猫が出てくるのなら…」と、知らなかった本や、あまり読んだことのない分野の本を読むきっかけにもなる。手に取った一冊から世界を広げることができたなら、それこそが著者の願う「猫文学」ではないかと思う。
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ぱるころ
ぱるころ さん本が好き!1級(書評数:147 件)

週1〜2冊、通勤時間や昼休みを利用して本を読んでいます。
ジャンルは小説・エッセイ・ビジネス書・自己啓発本など。
読後感、気付き、活かしたい点などを自分なりに書き、
また、皆さんからも学びたいと考え参加しました。
よろしくお願いします。

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