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ホセさん
ホセ
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戦中から戦後の身の周りの事を書いた表題エッセイ「考えられないこと」が、じわりじわりと迫ってくる。
93 河野多恵子 「考えられないこと」

今年(2015年)1月に他界された河野多恵子が、昨年87歳で書いた遺作。
短編/詞/日記で、短編は小説1つとエッセイ2つと見える。
戦中から戦後の身の周りの事を書いた表題エッセイ「考えられないこと」が、じわりじわりと迫ってくる。

戦時中や戦後の話は、大きな戦争の流れの話や個々の激しい体験の話しか頭に残っておらず、
具体性の乏しいところが拭いきれなかった。
市井の人がどう過ごしていたというところから、状況をより身近に感じることができた。

・昭和20年3月13日:大阪大空襲、東京の大空襲は前年11月から始まったが、大阪は空襲から終戦まで5ヶ月しかなかった。
・昭和19年に19歳で進学した河野多恵子は、1学期しか授業を受けられなかった。終戦後は9月一杯学校は夏休みになり、10月1日には3年生が繰り上げ卒業となる。
・終戦後身内の安否が分からない家族では、五銭白銅貨を釣り下げて、その動きで安否を占う事がよく行われていた。
・難波のデパート高島屋には火は入らなかったが売るものがない、そこで一部を利用して結婚式場として再開していた。
・兄の結婚にあたり、招待にはいろいろ困った。未亡人になった身内はどうするのか、安否がまだ不明な親類はどうするか・・・

お話しの主題は、運良く中国から帰還できた兄にまつわる話だ。
2ヶ月休んで仕事を得て、翌年に親同士の紹介から近所に住む幼馴染の娘と結婚する。
新婚旅行は南海電鉄で南紀白浜へ行くのだが、その電車はラッシュさながらに混んでいる。
そこで兄は人の頭越しに、友人の河田を見つけて「やあ」「良かったな戻れて」と言葉を交わす。
後日兄がこの事を友人に話すと、河田は既に戦地で亡くなっていたと知る。独身であった。

兄から数か月後にこの「考えられないこと」を河野は聞くのだが、誰にもこの話しをせずにいた。
それを2,30年振りに思い出し、なぜ私は話を墓場までもっていくかのように閉ざしていたのかを考えた。
それは話したら河田が気の毒な気がしていたからだったが、このまま葬ってしまう方がよほど申し訳ないと思い至った。

河野は河田と会ったこともないのだが、河田への河野の強い想いを感じる事ができる。
そしてそれは河田一人ではなく、百万と言われる戦死軍人への想いに通じていくのだろう。

見ると、扇風機の網にうっすらと塵が引っかかっり積もっていた。
今年の夏も終わっていくようだ。

(2015/8/23)
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ホセ
ホセ さん本が好き!1級(書評数:667 件)

語りかける書評ブログ「人生は短く、読むべき本は多い」からの転記になります。
殆どが小説で、児童書、マンガ、新書が少々です。
評点やジャンルはつけないこととします。

ブログは「今はなかなか会う機会がとれない、本読みの友人たちへ語る」調子を心がけています。
従い、私の記憶や思い出が入り込み、エッセイ調にもなっています。

主要六紙の書評や好きな作家へのインタビュー、注目している文学賞の受賞や出版各社PR誌の書きっぷりなどから、自分なりの法則を作って、新しい作家を積極的に選んでいます(好きな作家へのインタビュー、から広げる手法は確度がとても高く、お勧めします)。

また、著作で前向きに感じられるところを、取り上げていくように心がけています。
「推し」の度合いは、幾つか本文を読んで頂ければわかるように、仕組んでいる積りです。

PS 1965年生まれ。働いています。

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