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ときのき
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黒い森に棲む魔王の訪い
 1986年、新聞記者のサンドリ―ヌは長く疎遠だった祖母シュザンヌの急逝を知らされ、彼女が暮らしていたというノルマンディーの小島を訪れる。そこには祖母のかつての同僚だったという老人たちが暮らしていた。手違いにより帰りの船がなくなってしまったため、サンドリーヌは島に一週間逗留することになる。ある夜、祖母についての思い出話の中で、彼女が森に棲む“魔王”を恐れていたこと、彼らは魔王によって未だにとらわれているのだと聞かされる。そして老人のひとりが不意の死を遂げ……
 1949年、シュザンヌは戦争で子供時代を満足に送れなかった子たちのために作られた施設“幸せな世界”で働き始める。明るく楽しい環境に当初はよろこんでいた子供たちだったが、やがて表情に影が差すようになってくる。子供たちの部屋の壁に棒人間のらくがきを発見したシュザンヌは、事情を知ろうとする。少年のひとりはいう。夜になると魔王が連れに来るからだ、と。やがて子供たちの一時帰宅が計画されるのだが……

 フランスで幾つもの賞にかがやいたサスペンス小説だ。物語は五つのパートに分かれていて、上記のあらすじはまだ冒頭部。ミステリ慣れした読者ならこれだけの紹介でも何かしらの展開予測ができるだろうが、物語はここから異様なねじれをもって突き進んでいき、欺瞞と残酷な真相の暴露が繰り返さる。玉ねぎの皮をむいていくように事件を覆う幻想が痛みとともにひきはがされ、奇怪な真実を明らかにしていく。

 挿話同士の連関が肝になる物語だ。なかでもサンドリーヌと“彼”のエピソードは印象的だ。それは別の登場人物が語っていた、独軍による占領時代にドイツ軍人に頼らざるを得なかった女性たちの心情と重ねられているようでもある。

 物語全体に2019年のトゥール大学での講義という枠が与えられている。なぜこのように語られなければならなかったのか、語り/騙りに翻弄されながら、あの戦争と現代のフランス人の距離感についても考えさせられる佳作だ。
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ときのき
ときのき さん本が好き!1級(書評数:137 件)

海外文学・ミステリーなどが好きです。書評は小説が主になるはずです。

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