ぽんきちさん
レビュアー:
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動物と人。詰まるところ、それは個と個。
文筆家・イラストレーターの内澤旬子のエッセイ。
小豆島でヤギと暮らす日々のあれこれである。
田舎の島で動物と暮らすというと、牧歌的なイメージを受けるが、本書はやや異なるように思う。
著者は『世界屠畜紀行』という著書もあり、自身、わな猟免許・狩猟免許も持つ。(こちらは私は未読なのだが)実際に豚を飼って食べる肉にして食べるまでのルポ『飼い喰い』も書いている。
この時点で、単なる動物好きというのとはいささか違う。
本書の主役たるヤギのカヨは、食べるために飼っているわけではなく、家の周りの草を食べさせるために飼い始めている。ではドライな関係になるのかと読み進めると、その予想も外れていく。
何だかカヨの方が主導権を握っているように見えてくるのだ。
ペットとか愛玩動物というのともまた違い、1頭と1人の間に徐々にのっぴきならない関係性が生じていくようで、牧歌的というよりはむしろスリリングでさえある。
何せヤギのカヨは要求が多く、草の好き嫌いも多い。また、発情期があり、それが21日周期と相当頻繁である。そのたびに鳴いて騒ぐので、考えあぐねた著者は、島外のヤギ牧場まで行ってそこの雄ヤギとカヨを交配させる。すったもんだの挙句、無事妊娠して出産。それでめでたしめでたしかと思えば、ある程度子育てが終わればまた発情してしまうのが生き物の性。
他所にもらわれていった雄の子ヤギと久しぶりに再会したら、その子はカヨを見て発情。その場は収まったが、やがて発情期を迎えたカヨは、「私をあの男(=自分の子)のところに連れて行きなさい」と著者に“命令”するのである。
畜産や競走馬の世界では親子間の交配も珍しくはないという。結局のところ、カヨは自分と息子の間の子供を産む。そしてさらに、また次の子供も。
ヤギの欲情のまま、際限なく増やし続けるわけにはいかない。発情期のたびに子を産んでいたらヤギだらけになってしまう。世話も追いつかない。
とはいえ、著者が一番に心配するのは、カヨの身が持たないのではないかということ。
息子の去勢をし、カヨには何とか納得してもらうしかないのである。
関係性としてはまるで、女王様(カヨ)と下僕(著者)である。
ヤギなら皆かわいいかというとそうではない。カヨは著者には特別なのだ。カヨの子供たちの面倒も見、かわいがりもするけれど、カヨに比べるとどこか「薄い」。息子の去勢に複雑な思いは抱くものの、他の選択肢はありえない。ともかくカヨが一番なのだ。
そして築かれる、カヨが統べるヤギの国。
その顛末にのけぞりもし、またおかしさも感じるのだが。
とはいえ、他人のことを笑ってもいられない。
我が身を顧みれば、家の犬と同じベッドで寝ているが、人によっては眉を顰めるだろう。数か月前に別の犬を亡くした時は、親が死んだ時より泣いた。
誰か・何かと深く関わる時、そこに生まれる関係性は「個」と「個」のものであって、他人のうかがい知れない部分というのは出てくるものではないだろうか。
何だかそんなことまで考えさせてしまう。
だからこの本は「カヨと私」なのだ。
「ヤギと人間」ではなく。
小豆島でヤギと暮らす日々のあれこれである。
田舎の島で動物と暮らすというと、牧歌的なイメージを受けるが、本書はやや異なるように思う。
著者は『世界屠畜紀行』という著書もあり、自身、わな猟免許・狩猟免許も持つ。(こちらは私は未読なのだが)実際に豚を飼って食べる肉にして食べるまでのルポ『飼い喰い』も書いている。
この時点で、単なる動物好きというのとはいささか違う。
本書の主役たるヤギのカヨは、食べるために飼っているわけではなく、家の周りの草を食べさせるために飼い始めている。ではドライな関係になるのかと読み進めると、その予想も外れていく。
何だかカヨの方が主導権を握っているように見えてくるのだ。
ペットとか愛玩動物というのともまた違い、1頭と1人の間に徐々にのっぴきならない関係性が生じていくようで、牧歌的というよりはむしろスリリングでさえある。
何せヤギのカヨは要求が多く、草の好き嫌いも多い。また、発情期があり、それが21日周期と相当頻繁である。そのたびに鳴いて騒ぐので、考えあぐねた著者は、島外のヤギ牧場まで行ってそこの雄ヤギとカヨを交配させる。すったもんだの挙句、無事妊娠して出産。それでめでたしめでたしかと思えば、ある程度子育てが終わればまた発情してしまうのが生き物の性。
他所にもらわれていった雄の子ヤギと久しぶりに再会したら、その子はカヨを見て発情。その場は収まったが、やがて発情期を迎えたカヨは、「私をあの男(=自分の子)のところに連れて行きなさい」と著者に“命令”するのである。
畜産や競走馬の世界では親子間の交配も珍しくはないという。結局のところ、カヨは自分と息子の間の子供を産む。そしてさらに、また次の子供も。
ヤギの欲情のまま、際限なく増やし続けるわけにはいかない。発情期のたびに子を産んでいたらヤギだらけになってしまう。世話も追いつかない。
とはいえ、著者が一番に心配するのは、カヨの身が持たないのではないかということ。
息子の去勢をし、カヨには何とか納得してもらうしかないのである。
関係性としてはまるで、女王様(カヨ)と下僕(著者)である。
ヤギなら皆かわいいかというとそうではない。カヨは著者には特別なのだ。カヨの子供たちの面倒も見、かわいがりもするけれど、カヨに比べるとどこか「薄い」。息子の去勢に複雑な思いは抱くものの、他の選択肢はありえない。ともかくカヨが一番なのだ。
そして築かれる、カヨが統べるヤギの国。
その顛末にのけぞりもし、またおかしさも感じるのだが。
とはいえ、他人のことを笑ってもいられない。
我が身を顧みれば、家の犬と同じベッドで寝ているが、人によっては眉を顰めるだろう。数か月前に別の犬を亡くした時は、親が死んだ時より泣いた。
誰か・何かと深く関わる時、そこに生まれる関係性は「個」と「個」のものであって、他人のうかがい知れない部分というのは出てくるものではないだろうか。
何だかそんなことまで考えさせてしまう。
だからこの本は「カヨと私」なのだ。
「ヤギと人間」ではなく。
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分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。
本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。
あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。
「実感」を求めて読書しているように思います。
赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw
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- 出版社:本の雑誌社
- ページ数:0
- ISBN:9784860114701
- 発売日:2022年07月06日
- 価格:2200円
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