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ぱるころ
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舞台は老舗百貨店「東京デパート」!百貨店のワクワク感も描きつつ、女性が仕事を持つことについて作者の深いメッセージを感じる、昭和38年の作品。
昭和38年刊行の「元祖・お仕事小説」とも言うべき本作品が今年、復刊を遂げた。
主役は、老舗百貨店「東京デパート」で働く、入社4年目の仲良し3人組。紀美子は呉服売り場、節子は惣菜売り場を担当、サユリはエレベーターガールとして勤務している。

始まりの場面は、ストライキの朝。組合運動の内容も理解せずお祭り気分の紀美子に、同僚男性の生方は腹を立てる。紀美子の仕事に対する意識の低さは接客技術にも現れ、生方に注意されて言い争いになってしまう。さらに、この出来事について上司から「君は女なんだ」(=出世する立場ではないのだ)という言葉で叱られ、悔し泣きする。

その日の昼休み、社食で会った惣菜売り場の節子に話すと、節子は「忙しい時に男も女も関係ないわ」と一蹴。そんな、仕事に一生懸命の節子だが、パワハラ上司の存在と取引先との人間関係に悩んでいた。
一方でサユリは、宣伝部の嘱託社員と恋に落ちるが、彼は既婚者。読者から見ても、3人の中で一番危なっかしい存在だ。

物語の軸は、紀美子の仕事に対する考え方の変化と、それを通した成長。
女だからダメなのではない、仕事に対する自分の意識が甘かったのだ…紀美子は気付き、取り扱っている商品について勉強を始めた。すると途端に仕事が楽しくやり甲斐のあるものになり、生方との関係にも変化が…。

また、もう一つ触れておきたいのが、紀美子がボランティアとして活動している、日本点字図書館設立のテープ・ライブラリーでの朗読について。
紀美子が朗読するのは岡本かの子著「花は勁し」。色彩を知らない人たちにこそ、岡本かの子の豊かな語彙で色を伝えたい、と考えている。
実は作者有吉の読書人生を変えたというのが、昭和10年代に書かれた岡本かの子の小説。紀美子がボランティア活動に打ち込みながら、呉服売り場で仕事をする楽しさにも目覚めていくイメージに、この岡本かの子の作品を用いたことが非常に効果的で、興味深い。


物語全体を通して、作者の「仕事を持つこと」に対する強いメッセージ性が感じられる。昭和38年の作品としては、かなり時代の先を行っていたのだろうか。もしくは残念なことに、60年が経っても働く女性が抱える問題、また、仕事に対する男女の意識の差は変わらないのだろうか。考えながら読了したが、山内マリコ氏による解説でもその点について触れている。
主人公たちの直面する場面は、時代を経ているにも関わらずリアル。年齢や性別を問わず、読んだ人の多くが「仕事を持つこと」について今一度考えるきっかけとなるのではないか。
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ぱるころ
ぱるころ さん本が好き!1級(書評数:147 件)

週1〜2冊、通勤時間や昼休みを利用して本を読んでいます。
ジャンルは小説・エッセイ・ビジネス書・自己啓発本など。
読後感、気付き、活かしたい点などを自分なりに書き、
また、皆さんからも学びたいと考え参加しました。
よろしくお願いします。

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