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ときのき
レビュアー:
人間たちの織り成すドラマと知的遊戯性の幸福な結婚
 主人公のクイズ競技者、三島玲央はクイズ番組の決勝戦で敗れる。接戦だったが、対戦相手の本庄絆は出題者から問題文がまだ発されない内に回答ボタンを押し、正しい答えを出したのだ。他の出場者たちは本庄の勝利に納得せず、ネットでもやらせ疑惑が持ち上がる。三島は過去に本庄の出演したクイズ番組を確認しながら、自分と本庄の決勝戦の経過をたどり直すのだが……

 門外漢からすると競技クイズは単純な知識量勝負と見えるが、実は高度な駆け引きが必要な広い意味での知的競技だ。この長めの中篇サイズの小説を読みながら、読者はそのことを学ぶ。
 敗北した三島は決勝戦の一問一問を回想し、本庄のテクニックを検討していく。この過程が、競技クイズにうとい読者にむけた一問一答形式の問題としても読めるようになっている。同時にそれは読者がクイズ競技者としてのリテラシーを教育されていく過程でもあり、読みながら段々にその世界の価値観が理解できるようになっていく。そこには優れた短編ミステリの楽しみがいくつも用意されている。

 競技者たちは、他の出場者よりもどれだけ早く回答できるかを競い、問題文が最後まで読み上げられる前に回答する。「まだほとんど問題が読まれていないのに、どうやって正解を答えることができたのか?」という素人の素朴な疑問に、驚くような回答が明かされる。これまでクイズ番組を漫然と眺めてきた読者の意表を突く (だがきわめて合理的な)技術が駆使されている。
 余計な人間ドラマに尺を割かない。書くべきことが明確に把握されていて物語にブレも脱線もない。高度な娯楽を提供しつつ、読者に与える負荷は可能な限り低くなるよう設計されている。これほどユーザーフレンドリーな作品も珍しい。

 クイズはただの雑学の寄せ集めではなく、解くこととこれまで回答者がどう生きてきたかがかかわり、人生への姿勢と重ねられる。
 人生がクイズと異なるのは回答の正しさを保証する出題者がいないことだ。正解を知らせるチャイムが響くことのない静寂のなか、それでも選んだ答えを生きていくしかない。三島はこの小説が提供する難問に答えるが、その向こう側にあるのは受け入れることが難しい人生の不可解だ。
 コンパクトななかに、知的遊戯性と人間ドラマを両立した、とてもよくできた作品だ。
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ときのき
ときのき さん本が好き!1級(書評数:137 件)

海外文学・ミステリーなどが好きです。書評は小説が主になるはずです。

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