ウロボロスさん
レビュアー:
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この作品は私が参加している読書グループの方から紹介のあった作品です。大変面白く、ミステリアスに展開するストーリーを久々に堪能しました。
《弟が放火犯の疑いがある女と姿を消したらしいと、母から連絡があった。僕は彼と交流があった人物に会いに行ったが、弟の印象はそれぞれまるで異なっていた――。弟はどういう人間だったのか。誰のために生きてきたのか。僕たちの声は、弟に届くのだろうか。人生の「希望」とは何かを問う、話題の作家が拓く新境地》
(以上、出版社、紹介文)
この作品は私が参加している読書グループのTさんから以前紹介のあった作品です。大変面白く、ミステリアスに展開するストーリーを久々に堪能しました。
しかしながらこの物語は、ほっこりするような家族愛小説とは趣をズラし、あらぬ方向へとスライドさせてゆきます。そしてずれてずれて流れていったボールのゆくえは?はたしてそのボールは、最後には家族というホームベースへと返球されるのか?
ストーリーについては、冒頭の要約文にあるように、兄が失踪した弟をシーク&ファインドする筋立てとなっています。すなわち、「探し求めて見いだす」。そして兄弟の名前が兄=誠実(まさみ)、弟=希望(のぞむ)...。タイトルがhopeとしての希望と〝のぞむ〟としての希望のダブル・ミーニングとなっている。兄は失踪した弟と関係のある職場の関係者や友人たちを探して弟の実像に迫るのであるが...。
登場人物の造形描写が素晴らしい。特に脇役の存在感が揮っている。
兄弟の母親、父親、そして弟=のぞむが高校時代に交際していたコニ・ーアイランドの踊り子に憧れていた彼女等など。なんと言っても素人探偵として雇った高遠(たかとう)という名前の人物の掴み所の無い存在感が半端ない。
掴み所が無いと言えば、弟=のぞむこそが一番掴み所が無いと言っていい。成人してからの弟とは殆んど付き合いのなかった兄=誠実は、幼少期の弟の写真を見て、ある違和感を抱く?それは写真によって受けとる印象が異なるというものである。弟の顔立ちはイケメンといってよい美しい容貌である。しかしながら素人探偵、高遠は、その写真をひと目見るなりこう言いはなったのである。
「こっちの写真は〝のっぺらぼう〟みたいですね。」と。この〝のっぺらぼう〟という表現こそ兄=誠実がずっと考えて表現しえなかったコトバだったのである。それをこの素人探偵の高遠は、たったのひとことで言い当てたのである。
そして数ヵ月が経過し、素人探偵高遠から「弟さんが見つかりました」という報告が入る。
物語はここから読者を想像のおよびもつかない場所へと連れ去り、置き去りにし、途方に暮れさせるのである。
この作品の背景にあるのはだんだん読みすすめていくと、今で言うところの「親ガチャ」「子ガチャ」と育児虐待問題、老親介護問題、それに加えてドメスティックバイオレンスが見え隠れしてくる。
以下の文章は昨年、ある方がTwitterに実際に投稿されたリアルな文章です。8万3千の「いいね」と7千を超える「リツイート」がありました。これは、ドラマや映画の中の話ではなく、現実にリアルに生活している人の肉声です。このツイートに多くの人が反応するということは、それだけ多くの人がこのような問題を抱えて煩悶していることの証左になりはしまいか?
《私が息子の年齢の時には、家での虐待と学校でのイジメでどこにも居場所がなくて、家出を繰り返して繁華街で歳を誤魔化して働いて、思い出したくもない夜を過ごしたりしてたけど、息子は毎晩ソファーの上でお菓子を食べながら、Netflixで大好きなアニメをずっと観ている。これで、いい。》「これで、いい」という最後の言葉に諦念と迷妄が混濁してしまいます。
この小説の背景には、家族における夫婦関係、親子関係、兄弟姉妹関係そして「世間」に対しての「拗れ」「捻れ」が何かしらのストレス作用を生み、心 に見えない「傷痕」を残してしまいそれが昏い暗喩となって終始ただよっているように感じました。
さて、兄弟の再会は叶えられたのか?弟=希望(のぞむ)と一緒に逃亡した中年の女性は何者なのか?
その女性が語る話の中に、希望の実像が垣間見えるが真の実像は最後までぼやけています。
私は、弟=希望(のぞむ)の人物像を、誰からも好かれる文句なしの善人として描いた、ドストエフスキーの「白痴」の主人公ムイシュキン公爵と、一方でカミュの「異邦人」の主人公ムルソーも想起した。
この作品を読み終わった読者の中には、幼少期を懐かしみ檸檬ドロップ飴を舐めてみたくなる人もいるに違いない。私としては苺味のドロップ飴が好みなのだが・・・。
(以上、出版社、紹介文)
この作品は私が参加している読書グループのTさんから以前紹介のあった作品です。大変面白く、ミステリアスに展開するストーリーを久々に堪能しました。
しかしながらこの物語は、ほっこりするような家族愛小説とは趣をズラし、あらぬ方向へとスライドさせてゆきます。そしてずれてずれて流れていったボールのゆくえは?はたしてそのボールは、最後には家族というホームベースへと返球されるのか?
ストーリーについては、冒頭の要約文にあるように、兄が失踪した弟をシーク&ファインドする筋立てとなっています。すなわち、「探し求めて見いだす」。そして兄弟の名前が兄=誠実(まさみ)、弟=希望(のぞむ)...。タイトルがhopeとしての希望と〝のぞむ〟としての希望のダブル・ミーニングとなっている。兄は失踪した弟と関係のある職場の関係者や友人たちを探して弟の実像に迫るのであるが...。
登場人物の造形描写が素晴らしい。特に脇役の存在感が揮っている。
兄弟の母親、父親、そして弟=のぞむが高校時代に交際していたコニ・ーアイランドの踊り子に憧れていた彼女等など。なんと言っても素人探偵として雇った高遠(たかとう)という名前の人物の掴み所の無い存在感が半端ない。
掴み所が無いと言えば、弟=のぞむこそが一番掴み所が無いと言っていい。成人してからの弟とは殆んど付き合いのなかった兄=誠実は、幼少期の弟の写真を見て、ある違和感を抱く?それは写真によって受けとる印象が異なるというものである。弟の顔立ちはイケメンといってよい美しい容貌である。しかしながら素人探偵、高遠は、その写真をひと目見るなりこう言いはなったのである。
「こっちの写真は〝のっぺらぼう〟みたいですね。」と。この〝のっぺらぼう〟という表現こそ兄=誠実がずっと考えて表現しえなかったコトバだったのである。それをこの素人探偵の高遠は、たったのひとことで言い当てたのである。
そして数ヵ月が経過し、素人探偵高遠から「弟さんが見つかりました」という報告が入る。
物語はここから読者を想像のおよびもつかない場所へと連れ去り、置き去りにし、途方に暮れさせるのである。
この作品の背景にあるのはだんだん読みすすめていくと、今で言うところの「親ガチャ」「子ガチャ」と育児虐待問題、老親介護問題、それに加えてドメスティックバイオレンスが見え隠れしてくる。
以下の文章は昨年、ある方がTwitterに実際に投稿されたリアルな文章です。8万3千の「いいね」と7千を超える「リツイート」がありました。これは、ドラマや映画の中の話ではなく、現実にリアルに生活している人の肉声です。このツイートに多くの人が反応するということは、それだけ多くの人がこのような問題を抱えて煩悶していることの証左になりはしまいか?
《私が息子の年齢の時には、家での虐待と学校でのイジメでどこにも居場所がなくて、家出を繰り返して繁華街で歳を誤魔化して働いて、思い出したくもない夜を過ごしたりしてたけど、息子は毎晩ソファーの上でお菓子を食べながら、Netflixで大好きなアニメをずっと観ている。これで、いい。》「これで、いい」という最後の言葉に諦念と迷妄が混濁してしまいます。
この小説の背景には、家族における夫婦関係、親子関係、兄弟姉妹関係そして「世間」に対しての「拗れ」「捻れ」が何かしらのストレス作用を生み、心 に見えない「傷痕」を残してしまいそれが昏い暗喩となって終始ただよっているように感じました。
さて、兄弟の再会は叶えられたのか?弟=希望(のぞむ)と一緒に逃亡した中年の女性は何者なのか?
その女性が語る話の中に、希望の実像が垣間見えるが真の実像は最後までぼやけています。
私は、弟=希望(のぞむ)の人物像を、誰からも好かれる文句なしの善人として描いた、ドストエフスキーの「白痴」の主人公ムイシュキン公爵と、一方でカミュの「異邦人」の主人公ムルソーも想起した。
この作品を読み終わった読者の中には、幼少期を懐かしみ檸檬ドロップ飴を舐めてみたくなる人もいるに違いない。私としては苺味のドロップ飴が好みなのだが・・・。
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堀江敏幸、多和田葉子、中原清一郎、等々...です。
音楽は、洋楽、邦楽問わず70年代、80年代を中心に聴いてます。初めて行ったLive Concertが1979年のエリック・クラプトンです。好きなアーティストはボブ・ディランです。
格闘技(UFC)とソフトバンク・ホークス(野球)の大ファンです。
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- 出版社:新潮社
- ページ数:0
- ISBN:9784103531913
- 発売日:2020年03月25日
- 価格:1650円
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