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休蔵さん
休蔵
レビュアー:
5人のメイン登場人物の手紙のやりとりを軸に物語を展開させた三島由紀夫の異色作。
 もっとも日常的に書く文章は、現在はSNSだろうか。
 特定の相手に対してはメールであり、かつては手紙。
 本書はそんな手紙のやり取りを綴った小説である。

 主要登場人物は以下の5人。
 氷ママ子、45歳、自宅で英語塾を開いている。
 山トビ夫、45歳、服飾デザイナー。
 空ミツ子、20歳、かつてママ子の英語塾に通っていたOL。
 炎タケル、23歳、芝居の演出を勉強中。
 丸トラ一、25歳、ミツ子の従兄で、大学を3年留年中。

 5人を主体とした手紙のやりとりは様々な主題からなる。
 ラブレターや出産の通知、結婚の申し込みに結婚のお知らせ、中傷、見舞い状、借金の申し込み、などなど。
 様々な主題の手紙が登場人物の人となりを示しながら展開し、やがて物語の方向性を示していく。

 当初、ママ子とトビ夫は“大人”として余裕を見せた手紙を書いていた。
 ママ子のタケルやミツ子への態度、トビ夫のミツ子への態度には相手をやや下に置いたような印象がある。
 ミツ子に肉体関係を手紙で迫るトビ夫のやり方は、その最たるものと言えよう。
 そんな中、当然の成り行きのように若いミツ子とタケルは魅かれあい、やがて妊娠、結婚という運びになる。
 その状況を知らされたママ子は自身がタケルに心を奪われていたことに気づく。
 そして、乱れた心のまま突っ走る。
 その様子にトビ夫も自身のママ子への思いを悟る。
 “大人”たちが右往左往する様を尻目に若い二人は責任ある“大人”への道を着実に歩み始めていた。

 本書の最大の特徴は手紙のやり取りだけで物語を構成しているところ。
 それでいて本書の魅力は限られた5人の人物像が明確で、特に年齢との対比が見事なところ故なのかもしれない。
 年齢構成を明確に示しており、さらに年齢にそくした人物描写が的確なため、各世代で異なる読後感を与えてくれるはず。
 20代にはミツ子やタケルに、40代にはママ子やトビ夫に感情移入しがちだろう。
 このことは繰り返しの読書の面白さを実感させてもくれる。
 20代の頃には理解しがたかったママ子やトビ夫の言動も、40代になってみると「さもありなん」といったことなのかもしれない。

 小説は1回読んで終わるという娯楽ではない。
 読者の年齢や経験値に応じて異なる楽しみ方が可能となる。
 本書は手紙という媒体を用いた娯楽小説でありながら、小説の本質を分かりやすく伝えてくれているのかもしれない。
 自分にあてられた手紙を読み返すように、年齢を重ねるにつれ読み返すことで、異なる読後感が味わえるはずだ。
 次に読むのは5年後くらいにしてみようか。
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休蔵
休蔵 さん本が好き!1級(書評数:451 件)

 ここに参加するようになって、読書の幅が広がったように思います。
 それでも、まだ偏り気味。
 いろんな人の書評を参考に、もっと幅広い読書を楽しみたい! 

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この書評へのコメント

  1. ef2023-10-30 07:57

    再読の重要さについて書かれていることは全く同意です。
    自分自身、未読の本を読むのに追われてなかなか読み直しができず、反省しきり。

  2. 休蔵2023-10-30 20:02

    efさん、コメントありがとうございます。
    再読してみて、新鮮な感動を味わうこともありますが、私も未読の本を読むのに追われているのが実情です。
    そんななかで再読したい本に出会うこともあり、再読候補が積読状態になっています。

  3. No Image

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