休蔵さん
レビュアー:
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近世・近代に鉄を作っていた遺跡やその原料である砂鉄を採掘した遺跡を紹介する1冊。
「鉄は国家なり」という言い方がある。
本書には、高度経済成長期に鉄が「産業のコメ」と言われていたことを記している。
鉄は武器にも農具にも工具にも必要不可欠な素材で、それは令和の世の中でも変わらない。
当然のことながら、歴史を遡ると鉄は自前でなんとかするしかなかった。
本書は近世・近代に鉄を作っていた遺跡やその原料である砂鉄を採掘した遺跡を紹介している。
本書が取り扱う遺跡の所在場所は鳥取・島根県。
現在では、やや存在感が薄い山陰地方の両県であるが、近世・近代には製鉄の一大生産地として重要な位置づけがなされていた。
だから、たたら製鉄を行っていた製鉄遺跡もたくさんある。
そこから紹介する遺跡を絞り込むのは、1人の金属学者の事績による。
それは東京帝国大学に所属していた俵國一である。
彼は若干26歳の時、中国地方のたたら場の現地調査を行った。
明治31(1898)年のことで、俵は助教授になったばかりだった。
その報告は、俵が大学を退官した翌年の昭和8(1933)年である。
著者は俵が来訪したたたら場の現地調査を行った。
俵が残した実測図の場所を求め、突き止めた遺跡の発掘調査を実施したのである。
紹介している遺跡は都合山鈩、砥波鈩、価谷鈩、そして砂鉄の採掘場である砥波上鉄穴。
遺跡の発掘調査成果だけではなく、俵が残した『古来の砂鉄製錬法』を軸に、たたら製鉄の具体的な内容、できた鉄の行く末も簡潔に解説してくれていて、非常にわかりやすい。
国家の礎ともある鉄の産出地ということは、近世・近代の中国地方は相当に重要な地域として認識されていたに違いない。
今の印象とはまるで異なると言えよう。
たたら製鉄は海外からの安価な輸入鉄に押されて斜陽産業となっていき、やがては廃れてしまう。
現在、古来のたたら製鉄が島根県奥出雲町で行われているが、日本刀の素材を確保するための操業という。
経済的観点のみから考えると、現代社会にはたたら製鉄は不要ということになる。
それでも地元の人たちは、たたらを盛り上げようと精力的に活動しているそうだ。
鳥取県の伯耆国たたら顕彰会は、奥日野たたらフォーラムや中国山地たたらサミットを開催したり、小説「TATARA」やブックレット「たたらSide-Book AとZ」も出版、さらには製鉄遺跡の分布調査にも力を入れている。
島根県では6市町村が連合して「鉄と神話の道~鉄の道文化圏」という活動を行っているそうだ。
昭和62(1987)年からの事業という。
自治体も地域団体も、地元の特色を打ち出して、それを掘り下げ顕彰しようとしている。
観光客に来てもらいたいという気持ちもあるのだろうが、それよりも地元愛のなせる業という印象を受けた。
過疎の進行は、仕事や利便性を求めた活動が重なった結果だろう。
だから、地元の良さを掘り下げてみても、過疎の進行を遅らせることは難しいかもしれない。
でも、地元に誇りを持ちながらそこを出た人たちは、地元に関わり続けることになるのではないか。
関係人口という意味では、現象を止めることができるかもしれない。
ささやかな活動かもしれないが、地元のことをしっかり知ることは、その地域の活性化に繋がる大きな第一歩なのかもしれない。
発掘調査もその流れに一役買っているに違いない。
本書には、高度経済成長期に鉄が「産業のコメ」と言われていたことを記している。
鉄は武器にも農具にも工具にも必要不可欠な素材で、それは令和の世の中でも変わらない。
当然のことながら、歴史を遡ると鉄は自前でなんとかするしかなかった。
本書は近世・近代に鉄を作っていた遺跡やその原料である砂鉄を採掘した遺跡を紹介している。
本書が取り扱う遺跡の所在場所は鳥取・島根県。
現在では、やや存在感が薄い山陰地方の両県であるが、近世・近代には製鉄の一大生産地として重要な位置づけがなされていた。
だから、たたら製鉄を行っていた製鉄遺跡もたくさんある。
そこから紹介する遺跡を絞り込むのは、1人の金属学者の事績による。
それは東京帝国大学に所属していた俵國一である。
彼は若干26歳の時、中国地方のたたら場の現地調査を行った。
明治31(1898)年のことで、俵は助教授になったばかりだった。
その報告は、俵が大学を退官した翌年の昭和8(1933)年である。
著者は俵が来訪したたたら場の現地調査を行った。
俵が残した実測図の場所を求め、突き止めた遺跡の発掘調査を実施したのである。
紹介している遺跡は都合山鈩、砥波鈩、価谷鈩、そして砂鉄の採掘場である砥波上鉄穴。
遺跡の発掘調査成果だけではなく、俵が残した『古来の砂鉄製錬法』を軸に、たたら製鉄の具体的な内容、できた鉄の行く末も簡潔に解説してくれていて、非常にわかりやすい。
国家の礎ともある鉄の産出地ということは、近世・近代の中国地方は相当に重要な地域として認識されていたに違いない。
今の印象とはまるで異なると言えよう。
たたら製鉄は海外からの安価な輸入鉄に押されて斜陽産業となっていき、やがては廃れてしまう。
現在、古来のたたら製鉄が島根県奥出雲町で行われているが、日本刀の素材を確保するための操業という。
経済的観点のみから考えると、現代社会にはたたら製鉄は不要ということになる。
それでも地元の人たちは、たたらを盛り上げようと精力的に活動しているそうだ。
鳥取県の伯耆国たたら顕彰会は、奥日野たたらフォーラムや中国山地たたらサミットを開催したり、小説「TATARA」やブックレット「たたらSide-Book AとZ」も出版、さらには製鉄遺跡の分布調査にも力を入れている。
島根県では6市町村が連合して「鉄と神話の道~鉄の道文化圏」という活動を行っているそうだ。
昭和62(1987)年からの事業という。
自治体も地域団体も、地元の特色を打ち出して、それを掘り下げ顕彰しようとしている。
観光客に来てもらいたいという気持ちもあるのだろうが、それよりも地元愛のなせる業という印象を受けた。
過疎の進行は、仕事や利便性を求めた活動が重なった結果だろう。
だから、地元の良さを掘り下げてみても、過疎の進行を遅らせることは難しいかもしれない。
でも、地元に誇りを持ちながらそこを出た人たちは、地元に関わり続けることになるのではないか。
関係人口という意味では、現象を止めることができるかもしれない。
ささやかな活動かもしれないが、地元のことをしっかり知ることは、その地域の活性化に繋がる大きな第一歩なのかもしれない。
発掘調査もその流れに一役買っているに違いない。
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ここに参加するようになって、読書の幅が広がったように思います。
それでも、まだ偏り気味。
いろんな人の書評を参考に、もっと幅広い読書を楽しみたい!
この書評へのコメント
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- 出版社:新泉社
- ページ数:0
- ISBN:9784787721372
- 発売日:2022年08月18日
- 価格:1870円
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