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ぽんきち
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「風よ、吹け、お前の頬ははちきれろ、荒れろ、吹け。("Blow, winds, and crack your cheeks! rage! blow!")」(第三幕第二場)
シェイクスピアの四大悲劇の1つ。
その悲劇の内、最も悲壮、最も大規模と言われる。

ブリテン王リアは年老い、領地を3人の娘らに分配しようとする。
上の2人の娘ゴネリルとリーガンはここぞとばかりにおべっかを使う。末娘で最もかわいがられていたコーディーリアは、深い孝心を持つにも関わらず、姉らのようにふるまうことをよしとせず、そっけない受け答えをする。これに激怒したリアは、姉2人に領地を与えたうえ、末娘を勘当する。彼女の心立てに感銘を受けたフランス王は妃として娶ることにする。
一方、リアはまもなく、姉娘らからひどい仕打ちを受けるようになり、供のものを減らされた上、追放同然に放り出される。
荒野で、リアは暴風雨と闘う。それが冒頭の引用部分。
苦悩に沈むリアは発狂する。
リアの窮状を知ったコーディーリアは、父を救おうとフランス軍を率いてブリテンに向かう。父娘の絆は再び結ばれたが、しかし、武運つたなくフランス軍は敗れ、リアとコーディーリアは捕虜となる。挙句、コーディーリアは絞殺され、リアは息絶えた娘を胸に抱いて絶命する。

何とも救いのない話である。
娘たちも腹黒いのだが、陰に暗躍するものがもう1人いる。
リアの元側近グロスター伯の庶子であるエドマンド。
父伯爵に嫡子エドガーが謀反を企てていると吹き込み、追い払わせる。一方で、既婚者のゴネリル・リーガンの両方を誑かす。グロスター伯はエドマンドの奸計が元で、リーガンの夫コーンウォル伯に両眼をえぐり取られる。
エドマンドは野心家で、どこか『オセロー』のイアーゴも思い出させる。欲得ずくだけではない。彼には明確な悪意がある。単に自身を引き上げるのではない。他を引きずり降ろして自身がその場を占めるのだ。その相手に向けられる、冷ややかな確固とした悪意。

もう何だかどこまでも悲惨である。
最終的にはゴネリルもリーガンも死ぬ。エドマンドもコーンウォル公も非業の死を遂げる。
ゴネリルの夫のオールバニ公だけは心底悪人ではなかったようで、彼がこの後のブリテンを統べていくようである。

何だろう。リアはどこで間違ったのだろう。
頑固で癇癪もちの性格が災いした? 姉たちの甘言を信じて王国を手放してしまったのがよくなかった? かわいがっていた末娘の本心を見抜けなかったのが不運だった?
でもコーディーリアも変に意地を張るのもおかしいし、さらには邪だとわかっている姉たちに老父を委ねるのは軽率じゃないか? 本当の孝行娘なら止めるべきだったのでは?
つらつら考えているうちに、でも何だかこれは必然だったのかなぁとも思えてくる。必然というか、運命というか。人生、思った通りに進まないことなんかよくあることではないか。

リアは娘に、グロスター伯は息子に、完膚なきまでに打ちのめされる。
正しい心の子どももいたのに。取り立てて愚かでも悪人でもないのに。
子どもの育て方を誤ったといえばそうなのかもしれないが、それにしても手ひどい。

嵐。嵐。嵐が吹き荒れる。
その中にリアは立つ。
負けるとわかっていても。勝てぬとわかっていても。
止める道化の言葉も聞かず。
それが死すべき身の人間に宿るわずかな尊厳だとでもいうように。
痩せた身体が、荒野にそびえ立つ。


*<思い出したように時々シェイクスピア・シリーズ> 四大悲劇は完結!
『ロミオとジュリエット』(新潮文庫・中野好夫訳)
『ヴェニスの商人』(岩波文庫・中野好夫訳)
『オセロー』(新潮文庫・福田恒存訳)
『ハムレット』(白水Uブックス・小田島雄志訳)
『マクベス』(ちくま文庫・松岡和子訳)
    • 手元の本の表紙はこちら。1992年第53刷。定価310円表示。岩波文庫は現在は新訳が出ています。
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ぽんきち
ぽんきち さん本が好き!免許皆伝(書評数:1826 件)

分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。

本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。

あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。

「実感」を求めて読書しているように思います。

赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw

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