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ビシャカナ
レビュアー:
夢と欲望を飲み込んだ世界中のゴーストタウン
紀元前の古代から、つい数年前の現代まで──世界各地に打ち捨てられた街、いわゆるゴーストタウンをテーマにした写真集である。

日本からは「軍艦島」こと端島が取り上げられる。海岸線から広がる要塞のような島が丸ごと廃墟となったスケールは圧巻だが、世界に目を向ければ、その存在感すら霞むほどの巨大なゴーストタウンが数多く存在する。

なかでも圧倒されるのは中国だ。無計画に建設された巨大なニュータウンがいくつもある。入居者のほとんどいないまま廃墟と化した「天都城」はパリを模してエッフェル塔まで建てた街並みで、まるでテーマパークごと打ち捨てられたかのような光景だ。さらに、不動産バブルから頓挫した都市は、スペインの「セセーニャ・ヌエボ」をはじめヨーロッパ各地に散見される。人気のないさめざめとした廃墟に、人間の欲望と虚無が映る。

この種の本でインド亜大陸が一章として独立しているのは珍しいが、それだけに取り上げられる対象は興味深い。「ビシャナガル」や「ファテープル・シークリー」といった壮麗な建築群、あるいは呪いの伝承を持つ廃墟など、これまで名前も知らなかった都市が並ぶ。とりわけ1597年に建造された「聖アウグスティノ修道院」は印象深い。1835年まで地域信仰の中心であり、ヒンドゥー教の国にあってもキリスト教が深く根付いていた歴史を、今なお高さ46メートルの塔が厳かに物語っている。

中東や北アフリカにも壮大な廃墟は数多い。サウジアラビアの「アル・ウラー」、トルコの「カヤキョイ」、チュニジアの「タメジア」──どこまでも広がる街並みが、丸ごと廃墟と化した光景は息を呑む。地震や洪水、あるいは政治情勢によって、何百年と人々が暮らしてきた都市があっという間に滅びる事実にはゾッとする。

ヨーロッパにも意外な廃墟がある。パリ近郊の「グッサンビル」は魅力的な中世の面影を残しながらも、近隣空港の騒音問題で住民が去り、さらに航空機事故で犠牲者を出す悲劇を経て廃墟となった。また、イギリスでは第二次世界大戦中に軍事作戦のため接収された村が、戦後も返還されることなく廃墟のまま放置されている。自由を守るため協力した住民が裏切られた歴史は、痛ましい二面性を示している。

北米や南米に目を移せば、一攫千金の夢の果てが無数に散在している。数万人が住んだ街、盛大なパーティーが開かれたという街も、いまやその賑わいを想像すらできない。歴史を感じさせる木造建築の廃墟と、現代的なストリートアートが同居する光景は、異世界に迷い込んだかのようだ。

なかでもメキシコの「サン・ファン・パランガリクティロ」は圧巻だ。重厚なレンガ造りのキリスト教会が火山の噴火に飲み込まれ、溶岩に沈んでなお聳える姿は、非現実的で、この世の終わりの風景のようだ。

そして南極にも、かつて人類は捕鯨基地をはじめ様々な入植を試みた。しかし今やそれらも廃墟と化し、打ち捨てられた施設にペンギンやアザラシが呑気に遊ぶ。そこには人類滅亡後の世界を幻視するようだ。

世界中の打ち捨てられた街々を見ると、人類の欲望や信仰、そして災厄さえも、やがては静かな廃墟に溶けてゆくことを思わされる。
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ビシャカナ
ビシャカナ さん本が好き!1級(書評数:604 件)

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