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hackerさん
hacker
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「昭和28(1953)年10月23日作、昭和29(1955)年加筆、昭和57(1982)年改訂」(本書あとがきより)かこさとしが、自らの戦争体験を描いた紙芝居が絵本になったのは2021年7月でした。
表紙の絵をご覧ください。これは、当時18歳で、秋が好きだった、かこさとしが1944年秋に実際に目撃したもので、撃ち落された日本軍の飛行機から脱出したパイロットが、落下傘が開かずに地面に激突して死亡した時の絵です。翌日の新聞には、このことが大きな見出しとなっていました。

「壮烈!開かぬ落下傘。
皇居に最後の敬礼をしつつ、充容として散る」

この新聞記事のコピーは、本書巻末にも掲載されています。昭和天皇が、これを読んだとしたら、何を思ったのでしょうか。かこさとしは、こう思ったそうです。

「私はそれを見てくちびるをかみました。
くやしい、悲しい、なぐりつけたい気持ちで、いらいらしました」
「せめてあの落下傘がひらいてくれたなら、
たとえまた、明日、死ぬかもしれないとしても、
今日一日はいきられたのに―」


本書の絵は、後年のかこさとしの絵と比較すると、もちろん粗削りです。ただし、この絵本に、かこさとしは約30年かけて、手を入れてあるのです。ですから、本当に上手い絵に描きかえようと思えば、できたのでしょう。でも、あえてしなかったことは、18歳の目で見た戦争のイメージを、変えたくはなかったからだろうと思います。また、おそらく、18歳の時に感じていたことも、そのまま文章として残しているように思います。

「おばさんの一人息子―

開かぬ落下傘の飛行士―
そして知り合いのお父さん―
ともだちのお兄さん―
そして―そして―

戦争はどうして、こんな人たちを
元気で、明るくて、いい人たちを、
次々殺していくのだろう。

(中略)

どんな苦しみだって、
戦争の苦しさにくらべたら
耐えられるだろうに―
戦争をするだけのお金や物を、
みんなの生活がよくなることに使ったら、
ほんとうにたのしい世の中が作れるだろうに―」

本書の最後は、次のような文章です。

「翌年、日本は負けて戦争は終わりました。
それからくる年ごと、
さまざまな秋がめぐってきました。
つらかったり、さみしかったり、
くやしかったり、
切なかったりしましたが、
ただひとつ、
戦争のない秋の美しさが続きました」


今年も、8月15日がやってきます。
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hacker
hacker さん本が好き!1級(書評数:2276 件)

「本職」は、本というより映画です。

本を読んでいても、映画好きの視点から、内容を見ていることが多いようです。

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