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三毛ネコ
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初めはファンタジーかなと思ったのですが、全然違いました。毒の詰まった小説です。
始まりの町で物語は展開する。貴族ではないが、その言動から「伯爵」と呼ばれている資産家。その養女で、愛人でもある「コンテッサ」。魔術を仕事にしている「魔術師」。しかし、その技は失敗してばかりだった。褐色の肌で、頭を殴られた状態で見つかった「なまけ者のマリ」。ホテルの洗濯場の夫婦に下働きとして引き取られ、その夫婦が亡くなると映画館の受付として働いた。黄色いパラソルをこよなく愛する「パラソルの婆さん」。lどこからかこの町に現れたこの老婆は、妄言をわめき散らして周りの人を困らせたが、コンテッサがパラソルを渡すとおとなしくなった。だが、なぜかこの婆さんは図体のでかい男を憎んでおり、見つけるとパラソルで打ちかかるのだ。その対象になったのが「怪力」だ。その名の通り力持ちで、動かなくなった伯爵の車を押して、坂の上まで押し上げたのだ。その出来事の後、伯爵は「怪力」を警備員として雇った。町一番の情報通、「葉巻屋」もいる。そして、赤毛のハットラ、優等生のカイ、「私」である。

これだけの登場人物が、「私」の持つ写真に写っている。お祭りの時の写真なのだが、この写真の後にいろいろな事件が起きてくる。

トゥーレの母(羽虫と呼ばれていた)が行方不明になったのだ。「羽虫」は、帰る故郷がない流民のことだ。母はその出自のせいで、町の人から差別されていた。トゥーレの父は警察に連絡し、町中で母を探すことになった。

登場人物の名前がみんなカタカナだったり、読んでいる雰囲気はファンタジー小説のようだが、「羽虫」の子であるせいでトゥーレがいじめを受けていたり、一般人が投票できる選挙が廃止され、中央集権的な政府になっていたりするところは現実世界に近い感じがする。

舞台は変わっていても、底には差別があり、いじめもあり、民主主義の是非が問われている。

異世界を描くことで、かえって現実の世界にもある問題がくっきりと見えてくる。著者はそんな狙いでこの物語を書いたのかもしれない。毒にも薬にもならないというが、毒はしっかりと含まれた小説だった。
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三毛ネコ
三毛ネコ さん本が好き!1級(書評数:873 件)

フリーランスの産業翻訳者です。翻訳歴12年。趣味と実益(翻訳に必要な日本語の表現力を磨くため)を兼ねてレビューを書いています。サッカーファンです。

書評、500冊になりました。これからも少しずつ投稿していきたいと思います。

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