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武藤吐夢
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初期の作品群に比べると明らかに質が落ちているのが残念だが、品川猿は東京奇譚集の続編であり楽しい。

※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。

村上さんの作品を読むたび、ここ数年ずっと感じていたのだけれども、明らかにピークが過ぎた感じがするのです。初期の短編集に比べると明らかに質が劣化しています。

品川猿の告白は「東京奇譚集」の「品川猿」の続編です。これが読みたくて、本書を手に取りました。
好意を抱いた人間の女性と性的な関係は持てないので、その名前を盗んで満足する老猿を描いた話しです。しゃべる猿の品性のある態度が好感を持てる秀作です。

最初の石のまくらにという作品も良い。たまたま寝た女の話し。イク時、別の男の名前を叫ぶと思うけどゴメンねという彼女。彼女には好きな男がいて、彼には愛する恋人がいて、気が向いた時だけ彼女を抱く、セフレの関係なのだ。それでも彼が好き、他の男に抱かれていても彼のことだけを考えるくらいに好きという彼女が短歌を作っている。その歌の中にすごくアンニュイな雰囲気が凝縮していて、死を感じさせる危うさがあった。こういう作中の短歌ですら、こういう意味を感じさせるところが村上さんのすごいところだと思う。


>>『たち切るも/たち切られるも/石のまくら/うなじつければ/ほら、塵となる』


ヤクルトスワローズの話しやチャーリーパーカーの話しは私小説ぽい感じなので、もしかすると全体が私小説なのかと思う気もするのですが品川猿があるからそれはないのかな。

というのもインタビューでこんなことを村上さんは聞かれています。


>>──本書は、『職業としての小説家』『走ることについて語るときに僕の語ること』と並んで、あなたの自伝的な本の一冊といえるでしょうか? ここにはあなたの人生の、より私的な側面が描かれているように思えます。


どれがノンフィクションで、どれがフィクションなのかを考えながら読むのも面白い。

ウィズザビートルズという作品の恋人の兄と彼との二度の邂逅が趣きがある。
二度しか会っていない人なのに、その物語の中に、色んな思いや感情が凝縮されているのが良い。


村上さんはヤクルトのファンです。



ヤクルトスワローズの詩集のこの言葉がいい。


>>『そう、人生は勝つことより、負けることの方が数多いのだ。そして人生の本当の意味は『どのように相手に勝つか』よりはむしろ『どのようにうまく負けるか』というところから育っていく。』





2024 7 26
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武藤吐夢
武藤吐夢 さん本が好き!1級(書評数:1374 件)

よろしくお願いします。
昨年は雑な読みが多く数ばかりこなす感じでした。
2025年は丁寧にいきたいと思います。

読んで楽しい:2票
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