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ホセさん
ホセ
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人を食ったような、それでいて後に余韻を残している短編が7つ。 何とも伝えづらい小説だが、明らかに「この著者でなくては書けない」オリジナル性を感じた。
263 津村記久子 「浮遊霊ブラジル」

人を食ったような、それでいて後に余韻を残している短編が7つ。
何とも伝えづらい小説だが、明らかに「この著者でなくては書けない」オリジナル性を感じた。
それを解き明かして伝えるには、彼女の本をまた手に取れという事だろう。

しつこく新聞の書評に挙がってきたのと、この題名で読む事にした。
「未来世紀ブラジル」をマイ映画ベスト3に掲げ、卒業旅行を卒論の遅れと資金面でブラジルからメキシコに余儀なくされたので、「〇〇ブラジル」という名にはめっぽう弱い。
その後もまだかの地を踏んではおらず、ブラジル通のコーヒー店社長の出張話を楽しく聞いて茶化している。

新聞の書評を何故「しつこい」と感じたかというとこういうことだ。
書評には二種類あると見えて、「出た直後に予め仕込んでいたもの(有名作‽)を早くに載せる」ものと
「出た後にライターや作家たちの評判が上がり、要望や持ち込みがあってジワジワと載せていく」ものだ。
本著は恐らくその両方に該当していて、週を変えて違う新聞が載せ続けたから記憶に強く残ったのだ。
新聞書評に目を通し始めて二年位だが、ダントツのしつこさであったから、後者の突き上げが繰り返したのだと思われる。

給水塔と亀
うどん屋のジェンダー、またはコルネさん
アイトール・ベラスコの新しい妻
地獄
運命
個性
浮遊霊ブラジル
編名もなんだか不思議だ(^-^;

定年を迎え、独りで故郷の街のアパートを借りる男の入居日と翌日を描いた「給水塔と亀」は、
文章では殆ど表していないのだけれども、作者の伝えたい事というかもっとマイルドな「空気のようなもの」が、私には伝わってきたと思う。
・早く着いてしまったクロスバイクを、おせっかいの大家が愚痴りながら、どんどん開梱する。
・この部屋の前の店子のお婆ちゃんは部屋でひっそり往生したが、キチンと段取っていて、その日のうちにパートの同僚が訪ねて見つけてくれる。
・お婆ちゃんの飼っていた亀を、私はなぜか引き取って育てることにする。
・二階の部屋の窓に坐って夕方ビールを飲み始めると、子どもの頃に見たのと同じ海岸線が遠くわずかに見える
・そして、私が明日提出する履歴書を書くことを思い出す、というラストだ

「浮遊霊ブラジル」が作品としては圧倒的な存在感を放っている。
・定年で会社を辞め、妻にも先立たれた私は町内会の活動が拠り所になってる
・町内会の「まだ海外旅行をしたことがない」有志で、旅の恥だと旅行を計画し、私が提案したアイルランドのアラン諸島に行先が決まる。
・私は旅行の暫し前に残念ながら病死してしまうが、名残惜しかったのか浮遊霊になってしまい、人に憑りつく事ができるようになる。
・憑りついた人が乗り物で移動しない限り、フワフワと漂い動くだけで遠くには行けない。
 何とかアラン諸島に辿り着きたいと、私は憑依する人を変えていくのだが、何故か今はブラジルに居てね
・・・ と続くお話

憑りつく事を発見したり、漂う近所での愉しみは女湯に入る事位だが、客のほとんどが老婆で直ぐに飽きてしまう。
このように飄々とのんびりとした私なのだが、結構冷たい見方やドライな決断もしており、大変人間的で(この間まで人間だから当たり前なのだが)親近感が湧いてしまう。

さて、ブラジルに流れ着いた私は、果たしてアラン諸島に辿り着く事ができるのだろうか?
物語はどのように閉まるのだろうか?
その辺りは読んで楽しんで頂こうかな(^^)/

短編の主人公たちは老人ばかりではなく、若い人も出てくるのだが、彼らには一定の法則があると見えた(^^)/
そしてそんな法則の中でも、彼らはいい空気を纏って存在しているし、
著者は彼らに悪くない展開や未来を暗示している。
好感が持てるね。

(2017/3/19)
PS(2024年1月25日記)この書評を読み直していて、書いた5年半後の2022年9月に、
 私は「偶然」「ついでに」アラン諸島に日帰りで半日寄っていたことに気がついた‼
 日帰りできる一番近いニッシアー島だった。
 本著のアラン島のことなぞ、ついぞ忘れていた(^^ゞ
 証拠に、ウーーンと3分唸って大枚で買った、アラン名産のセーターの写真を追加します‼
 タグに「ORIGINAL ARAN CO.」とあります‼(何を興奮しているんだ私は(^^ゞ)
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ホセ
ホセ さん本が好き!1級(書評数:667 件)

語りかける書評ブログ「人生は短く、読むべき本は多い」からの転記になります。
殆どが小説で、児童書、マンガ、新書が少々です。
評点やジャンルはつけないこととします。

ブログは「今はなかなか会う機会がとれない、本読みの友人たちへ語る」調子を心がけています。
従い、私の記憶や思い出が入り込み、エッセイ調にもなっています。

主要六紙の書評や好きな作家へのインタビュー、注目している文学賞の受賞や出版各社PR誌の書きっぷりなどから、自分なりの法則を作って、新しい作家を積極的に選んでいます(好きな作家へのインタビュー、から広げる手法は確度がとても高く、お勧めします)。

また、著作で前向きに感じられるところを、取り上げていくように心がけています。
「推し」の度合いは、幾つか本文を読んで頂ければわかるように、仕組んでいる積りです。

PS 1965年生まれ。働いています。

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この書評へのコメント

  1. 三太郎2024-01-25 05:22

    アラン島の写真を見ると、真っ平らな島の地表のいたるところに風よけの石垣が張り巡らされて、農地が碁盤の目のようになっているのがよく分かりますね。アラン島は行ったことがないけれど、今は観光で行けるらしい?

  2. ホセ2024-01-25 10:32

    はい、対岸のDoolinから小型フェリーが出ていて「今日中に帰ってこれる島は?」と気軽に相談できて、利用しました。

    寄ったイニッシア―島は、丘を中心にフラットではありませんでしたが、
    風は大変強く、石垣は常にある感じでした。

    買ったセーターは「今までで一番重たいセーター」になりました。
    モハーの断崖のついで、でした(((^_^;)

  3. No Image

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