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shawjinnさん
shawjinn
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「事実に基づく世界の見方(ファクトフルネス)」の仕組み化について考える。
本書の著者ハンス・ロスリングさんは医師であり、公衆衛生の専門家である。モザンビークのナカラで医師として働き、貧しい人々の間で流行していた神経病の原因をつきとめることに成功した。その後、母国のスウェーデンに戻って、「事実に基づく世界の見方(ファクトフルネス)」を広めることに尽力してきた。

ファクトフルネスの大まかなルールは次の通りである。
1.分断本能を抑えるには
  大半の人がどこにいるかを探そう
2.ネガティブ本能を抑えるには
  悪いニュースのほうが広まりやすいと覚えておこう
3.直線本能を抑えるには
  直線もいつかは曲がることを知ろう
4.恐怖本能を抑えるには
  リスクを計算しよう
5.過大視本能を抑えるには
  数字を比較しよう
6.パターン化本能を抑えるには
  分類を疑おう
7.宿命本能を抑えるには
  ゆっくりとした変化でも変化していることを心に留めよう
8.単純化本能を抑えるには
  ひとつの知識がすべてに応用できないことを覚えておこう
9.犯人探し本能を抑えるには
  誰かを責めても問題は解決しないと肝に銘じよう
10.焦り本能を抑えるには
  小さな一歩を重ねよう

なるほど、全くその通りである。ただ、上記で抑えようとしている各項目が「本能」と名付けられていることからも分かるように、これらは、人間がもつ自然な認知の傾向でもあるのだろう。複雑な世界を大掴みで把握するために獲得した手法の一種であるともいえるかもしれない。だから、ときに、これらの「本能」は、誰にとっても抑えるのが難しいことがある。

実際にハンス・ロスリングさんも大失敗をしている。ナカラと道路でつながっているメンバという村で原因不明の麻痺が広がっていることを重視したナカラ市長に「感染症ならば道路封鎖すべきなのでは」と問われ、それに合意したのである。

翌朝、メンバ村の20人の女性と幼い子供たちは、作物を売るためナカラの市場に行くためのバスが来ないと知って、漁師にナカラまで船に乗せて欲しいと頼んだ。ところが、小さなボートは波にさらわれて、漁師も含めて全員が溺れてしまった───人々が海から遺体を引き上げて並べているのを見たハンス・ロスリングさんは、このことを35年間誰にも話せなかったそうである。

なお、集団麻痺の原因は、毒抜きしていないキャッサバを食べたことによるものだった。キャッサバに毒抜きが必要なことは昔から知られていて、普段通りであれば、キャッサバの毒にあたる人はいなかった。ところが、その年はキャッサバが大変な凶作で、政府はこれまでにない高値でキャッサバを買いまくっていた。そして、貧乏な農家は、貧困から抜け出せるかもしれないと思い、作物を全部売り払っていた。その一方で、自分達の食べる分を調達することができなくなってしまうという事態が発生したので、あまりにもお腹がすいて、毒抜きしていないキャッサバの根を引き抜いて食べてしまったのである。

だから、個人個人が「事実に基づく世界の見方(ファクトフルネス)」を意識して注意するだけでなく、仕組みとして整備する必要がある。そこで、集合知の活用を考えてみる。

たとえば、学術論文であれば、引用の関係性を解析することで、どの論文が重要なのかが、かなり正確に分かる。でも、たとえば、SNSでの声に同じ解析を施しても、集合意思が洞察している大事な潮流を見落としてしまうことがある。それは、言論空間そのものがもつ性質に起因している。(a)「食事の後には歯を磨こう」と、(b)「俺様は半年歯を磨いてないが虫歯にはなっていない。その秘訣は・・」だったら、(b)の方がバズる確率が高いのだから。

現在進行中で長く続いている情報革命のなかで、個別の脳同士がネットワークを形成し始めたのは、間違いなく重要な出来事であろう。だから、言論空間における見かけ上の流行りと、多くは語られない世論による大事な洞察との乖離という、この発見を上手く活かしたいところではある。AIによる解析で、世論の潮流マップのようなものを可視化できれば良さそうな気もするけれども、言うは易し行うは難しである。
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shawjinn
shawjinn さん本が好き!1級(書評数:85 件)

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『FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』のカテゴリ

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