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ぱるころ
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お城に暮らすお姫様のような、色とりどりの、憧れの世界。
「人々は楽しくなりたければ巴里のキャフェに入って薔薇色のハムを食べ、タルトゥをたべ、不機嫌になりたかったら、東京の喫茶店に入場して、舌が曲がりそうに甘いアイスコオヒイなるものを、ストロオで吸い上げるべきである。」

いつか読んでみたいと思っていた、森茉莉のエッセイ。森鴎外の長女 茉莉は、子供の頃から病弱で、鴎外や周囲の大人たちから特別に可愛がられて育った。そんな茉莉の「美の世界」は、とても手が届きそうにない憧れの世界だ。


自らを「無類の食いしん坊」といい、小説や戯曲でも食べ物のシーンばかり覚えているという森茉莉。話に登場する料理や菓子の描写は実に魅力的。
見た目にも美しい戴き物の菓子は、幼い頃に待ち侘びた、年に一度のお楽しみ。日頃から好んでいたものは、ビスケット、マカロン、銀紙に包まれたチョコレート、ドロップ…色とりどりの思い出が溢れ出す。

茉莉は16歳で最初の結婚をし、夫やその友人たちと共にパリで生活を送った。
「少女のまま結婚に突入してしまった私の、はじめての青春でもあったのである。」
その洗練された風景が、冒頭に紹介した一文のような感覚を作ったのだろうか。

エッセイの後半『反ヒュウマニズム礼賛』では、ガラリと雰囲気が変わる。仲間内のパーティーで一席ぶつようになった茉莉は
「贋ものインテリ女優をやっつけ、文壇クソクラエ、文芸評論家クソクラエという有様で、しまいには全社会までこきおろし、コテンコテンにやっつけたら大変面白かったから」
と、自らの論じたことを改めて文章にしている。世の中で「すがすがしい」と言われる美談など、少しも好きではない。子供の頃から感じていたという鬱憤を、発散するような力強さがある。

また「女流作家」という呼び名に対する抵抗は、有吉佐和子もエッセイにしていたが、有吉は「小説を書くのに男も女も関係ない」と簡潔に纏めていたのに対し、森茉莉にとっての女流作家は「へんに燻んだ粋な着物を着て、にょろりとしているようである」(=だから嫌だ)と、非常に感覚的なのも面白い。


お城で暮らすお姫様のようなイメージから始まり、結婚、海外生活、父との別れを経て小説家になるまで。森茉莉にしか書くことのできない、煌びやかな世界を堪能できる一冊である。


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ぱるころ
ぱるころ さん本が好き!1級(書評数:147 件)

週1〜2冊、通勤時間や昼休みを利用して本を読んでいます。
ジャンルは小説・エッセイ・ビジネス書・自己啓発本など。
読後感、気付き、活かしたい点などを自分なりに書き、
また、皆さんからも学びたいと考え参加しました。
よろしくお願いします。

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