あられさん
レビュアー:
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不便が自分を変化させる。
Twitterで流れてきたタイトルに惹かれ、読んでみました。この「行き詰まりを感じているなら」という部分に惹かれました。不便益が行き詰まりにどんな解決を与えてくれるのでしょう。
不便益とは不便によって得られる「益」です。
動くスピードを落として見えるようになるもの、使いづらくすることで使い手の技術が上がること、情報を制限することで記憶に残り忘れがたくなること。
著者は不便益には①アイデンティティを与える、②キレイに汚れる、③回り道、成長が許される、④リアリティと安心、⑤価値、ありがたみ、意味、⑥タンジブルである(実際に触れることができる)の益があると書いています。しかし私なりの解釈では「みなでクスリと笑える」、そんな「余裕が得られる」ということだと思いました。
不便益の事例が色々と紹介されていて、どの事例も不便でとても面白い。
例えば「ゴミ箱ロボット」。ゴミを見つけると、ゴミとその近くにいる人の間をうろうろして、お辞儀をする仕草を繰り返すそうです。ゴミは拾いません。拾えません。床に物が多すぎてルンバが挫折した我が家ですが、一台(というか、お一人?)欲しいと思わせます。オフィスや博物館といった人が集まる所にも親和性が高そうです。
京都のユニークなツアー「苗字が田中さんでなければ参加できない『田中さんツアー』」、京都の碁盤の目のような道をすごろくをしながら進む「すごろくツアー」(どちらも「ことぶら」主催)。誰でも参加できるという便利さ、観光名所を効率的に回るという便利さを手放しています。
安藤忠雄さんによる「住吉の長屋」も不便益の代表として登場。私もこの屋根のない中庭を挟んで行き来するという不便極まりない建物を初めて知った時、これは建築家のエゴなのでは?と思いました。しかし効率に追い立てられる生活を味わった後では「原理的な構成の中で、どれだけ変化に富んで奥行きのある住空間をつくれるか。(略)安易な便利さに流されない、そこでしかできない生活を問う住まい」という建築家の思いに深く共感します。家の中で傘が必要な生活をやり切れるかは・・・かなり覚悟が要りそうです。まさに不便から何かを引き出すという、前のめりでない、生活を味わう態度が求められます。家に、生活の場に自分を合わせていくという諦めの中で会得するもの。なんだか宗教の心持にも通じる気が。
便利さ・快適さは突き詰めるとそこから外れることができなくなります。自動化が進んだ職業では、その職業への憧れとなった技能や技術を自ら発揮する機会が減り「もはや違う仕事になっています」と著者は言います。
便利な機能は使い手の微調整や好み、さらには使い手の習熟を許容してはくれません。著者は電子レンジをお任せボタンではなく自分の好みで使おうとしたところ手順がひどく複雑になり、まるで「『こっちで上手くやってあげるから、あなたは大人しく、用意されたものだけを選んでいなさい』と言われている気がした」と書かれています。
不便益なんて遊びだとと言ってしまえばそれまでです。
しかし人口減少時代を迎え、年金の支払い開始年齢は引き上げられ、従来定年退職を迎えていた年齢を過ぎても私たちは働き続けるであろうことが予想されています。その長い社会生活で今までのようにひたすら便利さや効率を追求していくと、かなりしんどい時間になりそうです。ずっと「風邪をひいても休まない」そんなハイ・スペックの社会を続けるのでしょうか。
著者が人工知能を研究する中で師匠に言われた一言。
「これからは不便益やでぇ」
そんな転換を求められているように感じます。
不便益とは不便によって得られる「益」です。
動くスピードを落として見えるようになるもの、使いづらくすることで使い手の技術が上がること、情報を制限することで記憶に残り忘れがたくなること。
著者は不便益には①アイデンティティを与える、②キレイに汚れる、③回り道、成長が許される、④リアリティと安心、⑤価値、ありがたみ、意味、⑥タンジブルである(実際に触れることができる)の益があると書いています。しかし私なりの解釈では「みなでクスリと笑える」、そんな「余裕が得られる」ということだと思いました。
不便益の事例が色々と紹介されていて、どの事例も不便でとても面白い。
例えば「ゴミ箱ロボット」。ゴミを見つけると、ゴミとその近くにいる人の間をうろうろして、お辞儀をする仕草を繰り返すそうです。ゴミは拾いません。拾えません。床に物が多すぎてルンバが挫折した我が家ですが、一台(というか、お一人?)欲しいと思わせます。オフィスや博物館といった人が集まる所にも親和性が高そうです。
京都のユニークなツアー「苗字が田中さんでなければ参加できない『田中さんツアー』」、京都の碁盤の目のような道をすごろくをしながら進む「すごろくツアー」(どちらも「ことぶら」主催)。誰でも参加できるという便利さ、観光名所を効率的に回るという便利さを手放しています。
安藤忠雄さんによる「住吉の長屋」も不便益の代表として登場。私もこの屋根のない中庭を挟んで行き来するという不便極まりない建物を初めて知った時、これは建築家のエゴなのでは?と思いました。しかし効率に追い立てられる生活を味わった後では「原理的な構成の中で、どれだけ変化に富んで奥行きのある住空間をつくれるか。(略)安易な便利さに流されない、そこでしかできない生活を問う住まい」という建築家の思いに深く共感します。家の中で傘が必要な生活をやり切れるかは・・・かなり覚悟が要りそうです。まさに不便から何かを引き出すという、前のめりでない、生活を味わう態度が求められます。家に、生活の場に自分を合わせていくという諦めの中で会得するもの。なんだか宗教の心持にも通じる気が。
便利さ・快適さは突き詰めるとそこから外れることができなくなります。自動化が進んだ職業では、その職業への憧れとなった技能や技術を自ら発揮する機会が減り「もはや違う仕事になっています」と著者は言います。
便利な機能は使い手の微調整や好み、さらには使い手の習熟を許容してはくれません。著者は電子レンジをお任せボタンではなく自分の好みで使おうとしたところ手順がひどく複雑になり、まるで「『こっちで上手くやってあげるから、あなたは大人しく、用意されたものだけを選んでいなさい』と言われている気がした」と書かれています。
不便益なんて遊びだとと言ってしまえばそれまでです。
しかし人口減少時代を迎え、年金の支払い開始年齢は引き上げられ、従来定年退職を迎えていた年齢を過ぎても私たちは働き続けるであろうことが予想されています。その長い社会生活で今までのようにひたすら便利さや効率を追求していくと、かなりしんどい時間になりそうです。ずっと「風邪をひいても休まない」そんなハイ・スペックの社会を続けるのでしょうか。
著者が人工知能を研究する中で師匠に言われた一言。
「これからは不便益やでぇ」
そんな転換を求められているように感じます。
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今まで読むばかりの読書、少しはかたちに残してみたい。
未知の感情を体験されてくれる本、あらすじを説明できないような本が好きです。
勢いで大学の通信部の史学科に入学。歴史の本の合間に良質な物語も読んでいきたい。
この書評へのコメント

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- 出版社:インプレス
- ページ数:216
- ISBN:9784295000921
- 発売日:2017年03月16日
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