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ぷるーと
レビュアー:
月を合言葉(?)にして紡がれていくストーリー。
『ムーン・パレス』は、人類が始めて月に足跡を記した年に一文無しとなり、その後出会った二人の男性によって大きく人生が変わった青年の数年間を描いた絶妙の青春小説だ。

M・S・フォッグは、コロンビア大学の学生。母親と二人暮らしだったフォッグ少年は交通事故で母親も亡くし、伯父に引き取られて育った。コロンビア大学の最終学年で有り金を使い果たし、セントラルパークで数日野宿し餓死寸前のところを友人と知り合いの女性に助け出された。体力が回復したところでついた仕事は、車椅子の老人の付き添い。この老人の依頼から探し出した息子は、フォッグ自身と密接なつながりを持つ人物だった。

主要な登場人物であるフォッグ、キティ・ウー、ソロモン・バーバーは、いずれも父親の存在が希薄な家庭に生まれ、母親とも幼いうちに別れて親戚に育てられている。こういった珍しい家庭環境の3人が偶然の結果として出会い、互いに惹かれあう。

題名となっている『ムーン・パレス』はフォッグの下宿の窓から見えるチャイニーズ・レストランの量販店の看板から取られているが、この作品の中で、月は何度も繰り返し出てくる象徴的なメタファーだ。
事件が起こったのが「人類が始めて月を歩いた夏」。 
フォッグの伯父さんが組んでいたバンド名は「ムーン・メン」。 
車椅子の老人エフィングが絶賛するブレイクロックの「月光」の絵。 
ソロモン・バーバーが考えた、父に関する話に出てくる月。 
最後の最後にフォッグが見た「焼け石のように丸く黄色い月」。  

だが、これらの月は、何を表わしているのだろう。浮世離れしたフォッグの世界、未知の世界への強い渇望、届きそうで手に届かない世界・・・。月着陸、メッツの躍進、実際に存在したムーン・パレスと、具体的なものが効率よく配置されている中で、どこか抽象的で寓話的な話がそれだけよけいにぽっかりと浮いているというイメージをうけ、その話そのものが現実離れをした月の世界の出来事のようだ。オースターは、大都会の中にあって、どこでもないぽっかりと分離してしまったようなところ(イメージ)を書くのが、本当にうまいと思う。 

この『ムーン・パレス』はどちらかというと感傷的な話だと思うのだが、オースターは「私が書いた唯一のコメディ」と規定しているという。これがコメディ・・・。ちょっと青春時代の感傷を伴う、ほろ苦いコメディということだろうか。

全く余談になるが、エフィングの回想の中にでてくる交流電流を発見したテスラの話の中に、唐突に作家ナサニエル・ホーソーンの息子ジュリアン・ホーソンの話が挿入されている。
オースターは、『幽霊たち』の中にもホーソーンやホイットマン、H・D・ソローといった17世紀の文人たちの逸話を散りばめている。個人的に彼らのことをとても好きだったのか。彼らのようなつながりに憧れていたのだろうか。
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ぷるーと
ぷるーと さん本が好き!1級(書評数:2921 件)

 ホラー以外は、何でも読みます。みなさんの書評を読むのも楽しみです。
 よろしくお願いします。
 

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