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「運命が扉を叩く」もなかった?ベートーヴェン伝記の著者の実像。
近く映画が公開されること、そしてクラシックもので、いま次のリサイタルのためにベートーヴェンの後期ソナタを聴き込んでいることもあって手に取った。本屋のけっこう前面に出してあるし。
アントン・フェリックス・シンドラー。間をおいて都合3年足らずの期間、ベートーヴェンの無給の秘書を務めた男。ナポレオン戦争によりドイツ・ナショナリズムが高まった時期に大学で闘争に明け暮れて将来を失い、都合の良い人を使うクセのあったベートーヴェンにたまたま出会い、おしかけ秘書のような形で仕え、交響曲第9番「合唱付き」の初演、再演を手配した。しかしご本人には嫌われていた。
シンドラーはベートーヴェンの死後、難聴のベートーヴェンと意思の疎通をするために使われていた筆談用のノート「会話帳」がほったらかされていたのに目をつけて独占、後で意図的な書き込みを多く行い、やがてそれらをもとにベートーヴェンの伝記を執筆しベストセラー作家に。膨大な会話帳は売却し年金まで得たという・・。とんだ輩だ。ちなみに会話帳は主にベートーヴェンに意思を伝える人が使い、本人は読んで口で答えるのが常だったとかで、本人の直筆が少ないため一時はあまり価値がないとされたようだ。
後からベートーヴェンに取り入り秘書となったカール・ホルツや弟子のチェルニー、その弟子のリストへの対抗意識もすさまじい。
本書はもとは著者の修士論文だったという。史料をもとに、シンドラーの軌跡、ベートーヴェンへの過度な思い入れ、周囲との軋轢などを本人の目線に憑依して、ときにおもしろおかしく描いている。
ベートーヴェンの人となりはもちろん出てくるが、主に取り巻く人々の動きが中心だ。ナポレオンにより友邦の集まりで連帯もゆるかった神聖ローマ帝国で突然ドイツの愛国意識が燃え上がり、団結へと向かっていったというのは興味深かったし、クラシック好きの興味もある程度満足させられた。
しかし偉人を取り巻く者たちは・・と呆れた気持ちで読み進めた。シンドラーの捏造には当時から疑義が寄せられ、現代ではその多くが分かっている。しかしもはや何が真実かははっきりせず、それこそ楽聖ベートーヴェンが交響曲5番について「運命が扉を叩く」と言ったというエピソードやピアノソナタをシェイクスピアになぞらえたことなどにも疑問符がついている。
そう言う意味でも、シンドラーは結局ベートーヴェンのイメージをプロデュースしたと言えなくもない、という感じに落ち着いている。
確かにコメディとして映画向きかもしれない。やはりある程度マニアックにならざるを得ない部分やライバルとの関係、なによりシンドラーの描き方はどうなのか、気になっている。
まあ、結局のところベートーヴェンの音楽を聴くことが一番というところに戻ると思った。私的には、楽聖の謎は別に多くてもいい笑。
この本には確か出てこないが、後期ピアノソナタでも第31番の第3楽章は斬新な構成で、「のだめカンタービレ」でも出てきた。暗めに入り、「嘆きの歌」と呼ばれる悲哀を訴える部分が入り、荘厳さを感じる第一フーガへ続き、また「嘆きの歌」となる。そして最後に輝かしい第2フーガで高らかに終わる。
落ち込んだのだめはミルヒーの前で最後の歓喜のフーガを弾かなかった。シンドラーは捏造することで我がものとしたベートーヴェン像を世界に広めた。その間、音楽家としても数々の役職に就いている。
罪深いのか、人間の業なのか、結局うまく生きることができて、歓喜はあったのか。
さらさらと楽しく読める本ではありました。
アントン・フェリックス・シンドラー。間をおいて都合3年足らずの期間、ベートーヴェンの無給の秘書を務めた男。ナポレオン戦争によりドイツ・ナショナリズムが高まった時期に大学で闘争に明け暮れて将来を失い、都合の良い人を使うクセのあったベートーヴェンにたまたま出会い、おしかけ秘書のような形で仕え、交響曲第9番「合唱付き」の初演、再演を手配した。しかしご本人には嫌われていた。
シンドラーはベートーヴェンの死後、難聴のベートーヴェンと意思の疎通をするために使われていた筆談用のノート「会話帳」がほったらかされていたのに目をつけて独占、後で意図的な書き込みを多く行い、やがてそれらをもとにベートーヴェンの伝記を執筆しベストセラー作家に。膨大な会話帳は売却し年金まで得たという・・。とんだ輩だ。ちなみに会話帳は主にベートーヴェンに意思を伝える人が使い、本人は読んで口で答えるのが常だったとかで、本人の直筆が少ないため一時はあまり価値がないとされたようだ。
後からベートーヴェンに取り入り秘書となったカール・ホルツや弟子のチェルニー、その弟子のリストへの対抗意識もすさまじい。
本書はもとは著者の修士論文だったという。史料をもとに、シンドラーの軌跡、ベートーヴェンへの過度な思い入れ、周囲との軋轢などを本人の目線に憑依して、ときにおもしろおかしく描いている。
ベートーヴェンの人となりはもちろん出てくるが、主に取り巻く人々の動きが中心だ。ナポレオンにより友邦の集まりで連帯もゆるかった神聖ローマ帝国で突然ドイツの愛国意識が燃え上がり、団結へと向かっていったというのは興味深かったし、クラシック好きの興味もある程度満足させられた。
しかし偉人を取り巻く者たちは・・と呆れた気持ちで読み進めた。シンドラーの捏造には当時から疑義が寄せられ、現代ではその多くが分かっている。しかしもはや何が真実かははっきりせず、それこそ楽聖ベートーヴェンが交響曲5番について「運命が扉を叩く」と言ったというエピソードやピアノソナタをシェイクスピアになぞらえたことなどにも疑問符がついている。
そう言う意味でも、シンドラーは結局ベートーヴェンのイメージをプロデュースしたと言えなくもない、という感じに落ち着いている。
確かにコメディとして映画向きかもしれない。やはりある程度マニアックにならざるを得ない部分やライバルとの関係、なによりシンドラーの描き方はどうなのか、気になっている。
まあ、結局のところベートーヴェンの音楽を聴くことが一番というところに戻ると思った。私的には、楽聖の謎は別に多くてもいい笑。
この本には確か出てこないが、後期ピアノソナタでも第31番の第3楽章は斬新な構成で、「のだめカンタービレ」でも出てきた。暗めに入り、「嘆きの歌」と呼ばれる悲哀を訴える部分が入り、荘厳さを感じる第一フーガへ続き、また「嘆きの歌」となる。そして最後に輝かしい第2フーガで高らかに終わる。
落ち込んだのだめはミルヒーの前で最後の歓喜のフーガを弾かなかった。シンドラーは捏造することで我がものとしたベートーヴェン像を世界に広めた。その間、音楽家としても数々の役職に就いている。
罪深いのか、人間の業なのか、結局うまく生きることができて、歓喜はあったのか。
さらさらと楽しく読める本ではありました。
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読む本の傾向は、女子系だと言われたことがあります。シャーロッキアン、アヤツジスト、北村カオリスタ。シェイクスピア、川端康成、宮沢賢治に最近ちょっと泉鏡花。アート、クラシック、ミステリ、宇宙もの、神代・飛鳥奈良万葉・平安ときて源氏物語、スポーツもの、ちょいホラーを読みます。海外の名作をもう少し読むこと。いまの密かな目標です。
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- 出版社:柏書房
- ページ数:320
- ISBN:9784760150236
- 発売日:2018年10月09日
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