彩流社の人なのに自社商品の書評していいのかちょっとわからないのですが、せっかくなのでレビューを寄せさせていただきます。
ご存知の方もいるかもしれませんが、2012年9月に発行された本書が2018年秋になぜ『本が好き!』に上がったかを簡単にお伝えします。
2018年はノーベル文学賞がなく、その代替賞として「ニュー・アカデミー文学賞」が設けられました。
そこに彩流社刊行『小川』の著者であるキム・チュイが最終候補としてノミネート!
→大人の事情があって受賞前になぜか重版が決定
→結局受賞せず
→在庫がたくさん積みあがる
という事態になりました…。
恥ずかしい。
そんな理由もあって、正直に言うと、私はそれまで『小川』を読んだこともありませんでしたし、一番最初に本書を読んだとき、
「ちょっと読みづらいな…」というのが感想でした。
ボートピープルやベトナム戦争の歴史についてもちょっと知っておかないとわかりづらいところもありました。
ただわからないままでいるのが嫌だったので、二度三度読み直しました。
すると一篇一遍の文章と、そこに出てくるキーワードが次の一篇に繋がっていく感じが良くて、素晴らしいと自社商品ながら思ったのです。
そういうわけで『本が好き!』のサイトに献本させていただくことになりました。
この本は、著者のキム・チュイがボートピープルとしてベトナム戦争を逃れ、最終的にカナダ移民になり、そこでアメリカンドリームを夢見つつ、移民としての苦労やベトナム戦争後の混乱のつらい思い出を叙述していく自伝的小説です。
なので、ずっと戦争、難民、ボートピープル、差別、移民などなどの非常に重たいテーマが底に流れています。
ただ、それにも関わらず、読後は重さを感じさせず、なぜだかちょっと明るくなるというか、軽い足取りで生きていけるような、不思議な雰囲気の本だと思います。
こういうことを言うと馬鹿にされてしまうかもしれませんが、なんとなく方丈記の「ゆく川の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」を私は思い出しました。
もちろん、難民やボートピープルや戦争の問題は重要な問題ですし、日本での実生活でも店員さんが海外出身、ということが身近になったことを考えると、その重たいテーマを軽々しく扱うわけではありません。難民、移民問題で困ったり苦しんている人が私と同じように感じる人間なのだ、と共感する瞬間はいくつもありました。
ただ、私は本書の良さがそこだけでないなと感じています。
なんて説明したらいいのかわからないのですが、とにかく読後の清涼感というか、のどが渇いたときに飲みほすビールというか。
味は苦いけど、染みわたるような最高な感覚でした(センスのない喩えしか浮かばなくて申し訳ございません)。
最初はとっつきにくい部分もありますが、読後感が本当に素晴らしいので、ぜひ一人でも多くの皆様に手に取っていただけたら嬉しいです。
※最初に「ベトナム戦争」「ボートピープル」についてWikipediaで簡単に見ておいて、「訳者あとがき」から読んでおくと読みやすくなるなと私は思いました。
せっかくなので私が特に気に入っている部分を紹介させてください。
主人公の家族は難民として海外に出るために必要なお金を隠していましたが、
あるとき隣人のアン・フィに見つかってしまいます。ですが彼はそれを取らずに隠してくれた。
そこでカナダに移った後、主人公は同じように移民となったアン・フィ(彼)に尋ねるシーンがあります。
「なぜそんな英雄伝のようなことができたのか、と。
彼は笑いながら枕で何度も叩いて、私たちに(難民用の)船のチケットを買ってほしかったからだ、と言った。
そうでなければもう小さな女の子をからかうことができなくなるから、と。
彼はやっぱりヒーローだった。彼にそのつもりがなくても、知らぬ間に。」
人のお金を盗らないこと、当たり前だと思うかもしれないですが、戦争直後の混乱の中、「空腹が理性に、不誠実さが道徳に代わることは当たり前」だったことを想像したとき私にはできないなと思ったこと、そのあとそれを主人公が尋ねてもなおこの態度…なんだか嬉しくて気に入っています。
そして好きな文章は、本書の中からは選びきれませんでしたが
「髪の長い人だけが、恐れを抱く。髪がなければ、髪を引く人はいないから」と、
「人生は悲しみが敗北をもたらす戦いである。」を。
どちらも胸に響いています。
最後になりましたが、この場をお借りして今回『小川』について献本書評を書いていただいた方に再度お礼を申し上げます。
Twitter等含めたWebメディアに慣れ親しんでいないこともあり、せっかくいただいた感想にお礼できてないこと、大変恐縮しております。
今回いただいたレビューはすべて拝読しております。
これほど多くのレビューをいただけることは、出版社にとって、また出版社の営業である私個人にとっても望外の喜びであり、とても感謝しております。皆様一人一人にお会いしたいくらいです!
ぜひ今後とも彩流社の書籍、また他の出版社の本についても引き続きご感想と応援をいただければ幸いです。
彩流社ナカノヒトです。
※あくまで個人的なものであり、彩流社公式の見解ではありません。
この書評へのコメント
- 彩流社ナカノヒト2019-01-25 22:35
皆様、こちらへのリアクションもありがとうございます……献本をしてから時間も経っているのに、皆様のご厚意、本当に感謝です!ありがとうございます!!
>かもめ通信さま
忘れてました(笑)猫に変えるかもです(笑)
>ぴょんはまさま
ご共感ありがとうございます!!ぴょんはまさんのレビューにある、細やかな分析と進行&内容案内大変わかりやすくてすごくうれしかったです!
>たけぞうさま
こちらこそご丁寧にありがとうございます……そんな風に言っていただいてナカノヒトは幸せです。その上に私へのお気遣いも感謝です。
たけぞうさまのレビューの「愛おしい ────── 違います。」から始まる終わりの部分、とても共感しました!クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 - タカラ~ム2019-01-26 02:55
彩流社ナカノヒトさん、こんにちは。レビュアーのタカラ~ムです。
『ナカノヒトさんは、リアルでもお会いしたことのあるあの方かな?』
と思いつつレビュー拝見しました。
振り返れば、11月の「はじめての海外文学スペシャル」のイベントで、「小川」という作品の存在を知り、諸々の大人の事情(笑)も知り、あの日の帰りに青山BCでこの本を買って読んだのを思い出します。
と書くと、遠く昔の話みたいですが、まだ3ヶ月くらいしか経ってないんですよね。
その後、本が好き!にドーンと献本していただき、オンライン読書会も盛り上がっているのは嬉しいですね。もし、私の最初のレビューが何かのきっかけになっていたとしたら嬉しく思います。
これからもよろしくお願いします!クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 - 三太郎2019-01-26 19:54
>彩流社ナカノヒトさま
私の拙いレビューを読んで下さって有難うございます。
皆さんのレビューも読ませてもらって改めて思うのは、ベトナム戦争を同時代の出来事として体験したのは団塊の世代以上の人たちで、すでに知らない人の方が多くなったということでした。
僕自身は戦争当時、こういった団塊の世代以上の人たちが書いた記事や本でベトナム戦争を知った世代なのですが、ベトナムでは枯葉剤の影響が今でもあることなど、最近の記事で知りました。あの戦争は決して過去のことにはならないようです。
この「小川」は終戦当時の南ベトナムの中華系ベトナム人の視点から戦争を見ている点でユニークです。戦争は様々な視点で語られるべき事柄だと改めて感じました。これは戦争文学のひとつだと僕は思います。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 - かもめ通信2019-01-26 10:16
この場をお借りして、改めて宣伝させていただきます!
掲示板企画<読書会:キム・チュイの『小川』を読む>絶賛(?)開催中!!
https://www.honzuki.jp/bookclub/theme/no342/index.html?latest=20
引き続き、皆様のご参加をお待ちしております!
また、新しく<2019本が好き! #彩流社祭>もはじめましたので
こちらの企画もよろしくお願いします!
https://www.honzuki.jp/bookclub/theme/no346/index.html?latest=20クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 - 彩流社ナカノヒト2019-01-26 11:33
>あささま
コメント&レビューありがとうございます。
「あの小屋に振付師~」の部分素敵ですよね。見直したら私はライン引いてなかったので、思わず引いちゃいました。
こちらこそ『小川』を読んでいただきありがとうございました。そのようにおっしゃっていただいて大変嬉しいです。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
>三太郎さま
確かに戦争文学の一つといえるかもしれませんね。戦争の直接的な叙述はそれほど多くありませんが、戦争が与える影響と考えれば三太郎さまのおっしゃるとおりですね。あと私もドル束をベトナムの少女に投げつけるシーン、すごく印象的に感じました。レビューありがとうございました!
どうぞ今後ともよろしくお願いいたします。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 
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- 出版社:彩流社
- ページ数:200
- ISBN:9784779118227
- 発売日:2012年09月06日
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