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薄荷さん
薄荷
レビュアー:
絶妙なにぎり加減のあったかい「おむすび」は、どんな日本人の心も癒すのです。
出現するおにぎりはもれなくおいしそうだし、穏やかなオムニバス形式のストーリーは爽やかなラストまでのんびりと楽しめます。
まずはぜひ、目次をお召し上がりください。
おかか、梅、生たらこ・焼たらこ、味噌汁、鳥そぼろ、糠漬け、キムパブ、鮭、赤飯、昆布、きゃらぶき、筋子、かやく、塩むすび・・・空腹時には大変危険な最強呪文じゃありません?(笑)

***

題名と目次で確信できる通り、本書の舞台となる「むすびや」はおむすび専門店。
量販店やコンビニ、通販の日常化で苦戦を強いられている商店街にある、夫婦2人が営む小さな個人店で、その1人息子「結(ゆい)」23才・男子が本書の(メインの)主人公。

就職活動で20社以上から不採用の通知を受け、深く傷ついた重い心をきずったままやむなく家業を手伝うことになった彼は、子供の頃からかわれ続けた女の子のような「結(ゆい)」という名前と、「おにぎり屋さん」の家業にコンプレックスを抱いていた。

それでも、お客様に美味しさと真心を提供するために手間を惜しまない、両親の実直な仕事を身近で見つめ、同じ商店街に店を構える人々との交流で「商売に必要なこと」「仕事との向き合い方」を教えられ、少しずつ働いていくことの意義や喜びを感じていく。
そして祖母がつけてくれた「結」という名に込められた願いと暖かさが「むすびや」にふさわしいものであると知ったとき、彼は今まで引きずり続けた『ダメな自分』と決別し、未来に続く自分だけの道を歩みだす・・・。

そんな彼がこの物語の主人公であると同様、この店を訪れた人々もまたそれぞれが歩む物語の主人公であり、それぞれに苦悩や悲しみを背負っている。
結とその両親が知ることはないけれど、この店が提供する「人の手で丁寧に拵えたおむすび」に込められた真心は、食べた人の心に優しくあたたかく結ばれて・・・抱え込んだ屈託を柔らかく解していく。
だからこそ、その店は「むすびや」なのである。

***

さて、お店屋さんの子供だった方には理解できると思うのですが、私にストーリー以上に響いたのは、主人公や同じ商店街にある店の子供である幼馴染たちが、無意識に親や他の店の商売について「絶対にやっちゃいけないこと」を知っているところでした。

おにぎり屋の息子・結は、小中学時代「おむすび、おむすび」とからかわれ、家業が洋食レストランだったらカッコよくて自慢できたのに・・・と思いながらも、両親に対してそれを言うのはタブーだと感じて口にしたことはない。

八百屋の次男・俊次も、「やおやだってー!だせぇ」とバカにされ、ムカつく気持ちを結をからかうことで晴らしていたが、「むすびや」をからかうことだけは同じ商売をやっている家同士として絶対にしなかった。

魚屋の息子は、上の2人同様「お前、魚臭ぇ!」と揶揄され、告白した女子にソッコー断れた後彼女が「生臭いのはマジ勘弁~」と言ってるのを耳にして酷く傷ついたが、毎日笑顔で仕事をしていた両親に「魚屋故の不満」をぶつけることはしなかった。

生まれたときから家が正しく商売をやってると、その矜持は正しく子供の無意識に刷り込まれるものなのかもしれません。

私の実家(現在の職場)は旧街道に面しているため、料亭が数件立ち並んでいる合間に、ウチ(薬と雑貨とタバコ)とお菓子屋さん、酒屋さん、少し離れたところにお豆腐屋さん、八百屋さんがありました。歩いて5分の横浜駅に行けば、品数が多くて安い東急ストアやダイエーがあったのですが、母はできるだけ買い物は近所の店でしていました。
私がお買い物の手伝いができる歳になってから、まず厳命されたのは『もしも近所の店以外で競合するようなものを買ったとしたら、外から絶対に見えないように隠して家まで持って帰りなさい』でした。
だって『他所で買ったお菓子』を持ってお菓子屋さんの前を通ったりしたら・・・カンジ悪いでしょ?

というわけで、今お店屋さんをしてる方、かつてお店屋さんの子供だった方に、本書は特別お勧めです。
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薄荷
薄荷 さん本が好き!1級(書評数:513 件)

スマホを初めて買いました!その日に飛蚊症になりました(*´Д`)ついでにUSBメモリーが壊れて書きかけレビューが10個消えました・・・(T_T)

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