舞台は空襲の焼け跡が生々しい北九州・八幡地区。国内最大の「鉄の町」として発展し、東洋一の八幡製鐵所のお膝元に暮らす、三姉妹の家族の姿が描かれる。建具職人の貴田菊二を夫にもつ・長女サト。下宿業と金貸し業をいとなむ江藤辰蔵を夫にもつ、次女・トミ江。仕立て屋「テーラー瀬高」を構える瀬高克美を夫にもつ、三女のミツ江。鉄と煤煙にむせぶ「男の町」で、三姉妹の一家の暮らしぶりが丹念に豊潤につむがれてゆく。戦後まもない八幡を舞台にした、自伝色のつよいホームドラマと云えば分かりやすいかもしれない。
時代設定上、従来には見られなかった「戦争」や「天皇」といったモチーフが作中に盛り込まれる他、ファンにはおなじみのシーンの跳躍といった村田節もひかえめながら健在だ。また全編が「炎」のイメージによってゆるやかにつながれていることも見逃せない。①広島と長崎の上空で炸裂した原爆の火球、B29の空襲による小倉の大火。②八幡の象徴たる高炉の炎、③克美や辰蔵のふるまいにみる煩悩の業火。一見つながりが感じられない各章は、こうして連想のように結ばれる。注目すべきは、戦争の災禍(大火)に見舞われたにもかかわらず、町の人々が高炉に吹きあがる「火」に誇らしさを感じているところだ。その火は同時に八幡の復興の希望として人々の胸にも点り続けたものだろう。
とりわけ魅せられたのは、長女サトのもとで暮らすヒナ子ちゃんである。ペチャンコの胸と鳥ガラみたいな足をもつヒナ子ちゃん。健気で、意地悪で、純真で、好奇心いっぱいのヒナ子ちゃん。両親や友達へとる彼女の言動がとっても魅力的なのである。老人のみならず、子どもを描かせても上手いものだなと、著者の造形力と描写力にあらためて感じ入った。続編を読む際は、ヒナ子ちゃんの動向を中心に追っていきたい。(彼女には著者自身のすがたが投影されていると思われる)。続編は5月に発売されるとのこと。どの時代まで描くのかも気になるところだ。こんな感じでいかがでしょう~。
郷土作家シリーズ
村田喜代子『八つの小鍋』
葉山嘉樹『セメント樽の中の手紙』
五人づれ『五足の靴』



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ごめんちゃい。
(2019/11/16)
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この書評へのコメント
- Kurara2018-04-20 21:57
mono sashiさん♪
飛んできました!(笑)
いやぁ、まさかこんなに早く拝見できるとは思わなかったのでウハウハしています。
なるほど、わたし、こういうひと昔前の人間ドラマの話が好きなので楽しみになりました。思ったよりさっくり読めそうな気がします!八幡製鐵所の町っていうのもなんかいいな。
意外にも☆は3つってことですが続編も読むよね??w
とにもかくにも素早い対応ありがとございました(^-^) 早速予約入れて来ましたよん!
またいつかお願いしますね←対応の速さに味をしめたらしいwwクリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 - mono sashi2018-05-19 00:53
*Kuraraさん
はやかったでしょ、案外(笑)
それはともかく、この小説は姉妹の生活ぶりや年中行事などの描写が多く、女性の方のほうが物語に入りこんで、細かなところも上手くすくいあげられるのじゃないかなーと思いました。
三人称で書かれているのですが、描く対象があちこちにとぶので、追っかけるのが忙しかったです。(八幡製鐵所は小学校の社会科見学でいったなぁ…遠い目)
続編がでたら?……
郷土の作家ですからねぇ……もちろん、よ、よ、読みますよ(-_-;)
本を読んだら感想を教えてくださいなぁ。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 - mono sashi2018-04-21 18:46
*Kuraraさん
ありがとうございます。
どんなタイミングかは分かりませんが、続編読みますよー。いやマジで。
いつか「九州の百冊シリーズ」というのもはじめてみたいです。
九州にゆかりのある文学者やその地を舞台にした作品は大歓迎!
また声をかけてくださいな。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 - クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。

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- 出版社:平凡社
- ページ数:263
- ISBN:9784582836837
- 発売日:2015年02月13日
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