書評でつながる読書コミュニティ
  1. ページ目
詳細検索
タイトル
著者
出版社
ISBN
  • ログイン
無料会員登録

かもめ通信
レビュアー:
現在進行形の社会情勢を扱うノンフィクションは、書き手はもちろん読み手もまた、いろいろなことが問われるものだとつくづく思う。
その画像は奇妙だった。
こんな書き出しから始まる本書は、
2015年の秋に著者がFacebookで見かけた
1枚の写真がきっかけで誕生したのだという。
“ダラヤの図書館”と題されたその写真を見て
興味を抱いた著者は取材をはじめる。

といっても、現地に赴いたわけではない。
ダマスカス近郊の町、ダラヤはその頃、
シリア政府軍によって包囲され、
絶え間ない爆撃と飢えに苦しんでいて、
外から取材に赴けるような状況ではなかったのだ。

やがて著者は写真の投稿者に投稿者にコンタクトをとることに成功し、
スカイプを通じて話を聞くようになる。
2016年8月にダラヤが降伏するまでの間、
時折ダラヤの状況悪化によって途切れることはあったものの
およそ1年にわたるこのやりとりを元に書かれたのが本書というわけだ。

元々本好きだったわけでは決してなく、
むしろ本などほとんど手にしてこなかったような若者たちが
地下に秘密の図書館を作った活動の記録。

がれきの中から救い出され、
いつか本当の持ち主の元に返せる日が来ることを願って
1冊1冊、汚れを拭き取られて、名前を書き込まれた本たちを
手に取ることによって
恐怖や困窮や絶望に耐えた人々。

そこには本の読むことによって得ることができる力だけでなく
本を通じて改めて感じることのできる人々のつながりがある。

こうした活動が営まれた背景にはダラヤという町の特殊性も見逃せない。
著者が直接会って取材することができた
若者たちに指導的役割を果たした“教授”の言葉は印象的だ。

「封鎖は逆にわたしたちを過激化への誘惑から守ってくれていました。
ダラヤの精神を生かし続けてくれたのです。
四年のあいだ、わたしたちにはわたしたちしかいなかった。
常に容易なわけではありませんでしたが、
わたしたちは諍いをいつも対話で解決しました。
外からの侵入はなかったのです。
操ろうとする試みもなく、外国の干渉もなかった。特殊な経験です」

本のこと、図書館のことだけではない
いろいろなことを考えさせられる本だ。

だがそれだけに、この本からなにを受け取るのかが
読み手に問われる本でもある気がする。

<関連レビュー>
シリアからの叫び
シリア戦場からの声
お気に入り度:本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント
掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
かもめ通信
かもめ通信 さん本が好き!免許皆伝(書評数:2238 件)

本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。

参考になる:37票
共感した:2票
あなたの感想は?
投票するには、ログインしてください。

この書評へのコメント

  1. No Image

    コメントするには、ログインしてください。

書評一覧を取得中。。。
  • あなた
  • この書籍の平均
  • この書評

※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。

『シリアの秘密図書館 (瓦礫から取り出した本で図書館を作った人々)』のカテゴリ

フォローする

話題の書評
最新の献本
ページトップへ