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そうきゅうどう
レビュアー:
2018年の各種ミステリ・ランキング第2位の話題作(?)。で、実際に読んでみた結論。叙述トリックを使わずストーリーテリングだけでどんでん返しを仕掛けたことは評価するが、読んでいて退屈だった。
物語はヒースロー空港のビジネスクラスのラウンジで、ある男女が出会うところから始まる。男は既婚者で、女は独身。その男が言うには、妻が浮気をしている、と。その話をひとしきり聞いた女が問う。「それで、あなたはどうするつもり?」男はジンで痺れた口で答える。「僕の本当の望みは、妻を殺すことだよ」それに対して女は「そうすべきだと思う」と返した。それはたまたま出会った見知らぬ者同士の、半分戯れ言ともつかないようなやり取り──のはずだった。だが2人は1週間後の再会を約し、そこから2人の妻殺しの計画が動き出す…

調べてみたら、このピーター・スワンソンの『そしてミランダを殺す』は、『このミステリがすごい2019年版』第2位、『このミステリが読みたい2019年版』第2位、『週刊文春ミステリーベスト10 2018』第2位と、その年のミステリ・シーンを席巻した作品だった(といっても私はこの種のランキングには重きを置いていないので、どうでもいいのだが)。

で、実際に読んでみた結論。基本プロットのアイディアは悪くないが、読んでいて退屈だった。乾いた筆致で淡々と語られた倒叙ミステリ。全3部の構成で、各部の終わりに物語の状況を一変させるサプライズが仕掛けられている。けれど、これってみんなが大騒ぎするようなものか?

例えば第1部。この作品、奇数章は男が、偶数章は女が語り手となって、物語が語られるのだが、第1部では男と女は同じ出来事を語っていない。2人の語る物語の間には大きな時間差がある。そこから私はビル・S・バリンジャーの『消された時間』のような仕掛けを想像していた。ところが、いざ蓋を開けてみれば…。この展開は意外といえば意外だが「な~んだ、スワンソンはこの作品で、こういうことがしたかったのね」と、ちょっと気が抜けてしまった。そこからマインドを修正して、第2部以降は「予想通り」とは言えないが「想定の範囲内」だった。

ミステリを読み慣れていない人が本作を手に取ったら、確かに驚くかもしれない。「意表を突く展開!」と騒ぐ人もいるだろう。だが、ある程度ミステリを読んでいるなら、そこまで高く評価するような作品とも思えない。もし評価できる点があるとしたら、叙述ミステリ全盛の時代に、叙述トリックを使わずストーリーテリングだけでどんでん返しを仕掛けたことか。ただ、それは叙述トリックが使われる以前のミステリに戻っただけ、ということでもある。

なお解説では
本書のページをめくり始めた読者諸氏は、作品の中に存在する、ある作家への強いシンパシーのようなものに気がつくに違いない。その作家の名は、パトリシア・ハイスミス。
と、パトリシア・ハイスミスの影響について熱く語られているが、実は私、パトリシア・ハイスミスはほとんど読んだことがない。短篇をいくつかと、映画『太陽がいっぱい』の原作を読んだことがあるような気がするが、全くの記憶違いかもしれない。ただ、映画『太陽がいっぱい』は見たことがあって、本書のラストは(原作ではなく映画の)『太陽がいっぱい』へのオマージュのように感じた。

余談になるが、本作について私は『赤毛のレドメイン家』を違う視点から語り直したような作品だという印象を持った。ネタバレを避けるため詳しくは述べないが、本作を読んだ人はゼヒ『赤毛のレドメイン家』も読んでほしい(し、『赤毛のレドメイン家』を読んだ人はゼヒ本作も読んでほしい)。
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そうきゅうどう
そうきゅうどう さん本が好き!1級(書評数:594 件)

「ブクレコ」からの漂流者。「ブクレコ」ではMasahiroTakazawaという名でレビューを書いていた。今後は新しい本を次々に読む、というより、過去に読んだ本の再読、精読にシフトしていきたいと思っている。
職業はキネシオロジー、クラニオ、鍼灸などを行う治療家で、そちらのHPは→https://sokyudo.sakura.ne.jp

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