Yasuhiroさん
レビュアー:
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名作「グラスホッパー」「マリアビートル」の続編となる殺し屋シリーズ。前半、恐妻家という設定が今一つな感はあるが、書下ろし部でちゃんと挽回する伊坂はさすが。
伊坂幸太郎の最新作で「グラスホッパー」「マリアビートル」に続く「殺し屋」シリーズです。
先日レビューした「首折り男のための協奏曲」も「殺し屋・首折り男」は出てくるには出てくるのですが、この首折り男はどうも「マリアビートル」の天道虫ではなかったようで別の伊坂世界に属する作品でした。
その点、この短編集は明確に前二作品と同じ世界の物語となっています。主人公の裏の名前は「兜」とこのシリーズっぽいですし、その兜がお馴染みの情報屋「桃」と会話しますし、押し屋の「槿(あさがお)」にある人物を押すよう依頼もします。
そしてこの作品で一番ユーモラスな場面、フルヘルメットにスキーウェアでまるで宇宙飛行士のような格好で兜が本物のスズメバチ退治をするところに「スズメバチ」もチョイと顔を出します。
その他、名前だけですが「寺原」「峰岸」「蝉」「檸檬」「蜜柑」も出てきて、誰が引退して誰が死んだか復習できました。
そう言えば、兜が「仕事」の時は雨が多く、
さて、前振りはこれくらいにして、本作の紹介。兜は今まで以上に強い殺し屋ですが、家族のためにもう殺し屋をやめたがっています。それをやめさせずネチネチ引っ張り続ける仲介者の医者。彼からしばしば「悪性を手術(プロの殺し屋を殺す)」するように命令されるほどの超一流のプロですからそりゃなかなかやめさせてはくれないですよね。そのあたりの仕事の描写は、今までの殺し屋のやり方よりリアルでお見事ですが、愛すべき「蝉」や凄みのある「鯨」たちのようなキャッチとなるような個性がないのがやや残念。。
その分伊坂がキャッチとしたのは実生活の表の顔なのですが。。。
さて、題名のAXは何を意味するのか?「蟷螂の斧」、すなわち蟷螂が自らの斧で敵わない相手に立ち向かうことを意味するのですが、その相手とはなんと妻。ようするに恐妻家なのです。
息子にも見透かされ同情されるくらい妻に怖れこびへつらっている様子が、一応伊坂らしいユーモアで語られ、裏の顔との対比で情けない表の日常を描こうという意図は十分わかるのですが、ありふれた設定で個人的にはあまり笑えませんでした。
ですから雑誌に掲載された前半三作「AX」「BEE」「Crayon」は今までのシリーズに比べると伊坂らしいパンチに欠けるな、と正直なところ思いました。
ただ、そこから一転して、書下ろしの後半二作「EXIT」「FINE」はさすがに力が入っており、思いがけない展開とその後を描きます。最後にあれほど殺し屋家業をやめたがっていた兜が、やめさせなかった「医者」へまいておいた罠がついに発動するあたりはさすが伊坂、と唸らせてくれます(ただし、正統派ミステリファンにはありえないと一蹴されるかもしれませんが)。最後の一文もほろりとさせてくれます。
というわけで、書下ろしで何とか挽回したものの、前二作のようなダイナミズムを期待し過ぎてはちょっと肩透かしを食らってしまいますのでご注意を。でも人間味あふれる殺し屋を描き続ける伊坂幸太郎、彼のファンにはやっぱりマストの一冊でしょう。
先日レビューした「首折り男のための協奏曲」も「殺し屋・首折り男」は出てくるには出てくるのですが、この首折り男はどうも「マリアビートル」の天道虫ではなかったようで別の伊坂世界に属する作品でした。
その点、この短編集は明確に前二作品と同じ世界の物語となっています。主人公の裏の名前は「兜」とこのシリーズっぽいですし、その兜がお馴染みの情報屋「桃」と会話しますし、押し屋の「槿(あさがお)」にある人物を押すよう依頼もします。
そしてこの作品で一番ユーモラスな場面、フルヘルメットにスキーウェアでまるで宇宙飛行士のような格好で兜が本物のスズメバチ退治をするところに「スズメバチ」もチョイと顔を出します。
その他、名前だけですが「寺原」「峰岸」「蝉」「檸檬」「蜜柑」も出てきて、誰が引退して誰が死んだか復習できました。
そう言えば、兜が「仕事」の時は雨が多く、
強力な雨男につきまとわれているのではないかと訝るシーンも出てきてニヤッとさせますが、これはまあファンサービスに過ぎないでしょう。一応解説しておくと「死神」シリーズの主人公千葉が現れる時はいつも雨なのです。
さて、前振りはこれくらいにして、本作の紹介。兜は今まで以上に強い殺し屋ですが、家族のためにもう殺し屋をやめたがっています。それをやめさせずネチネチ引っ張り続ける仲介者の医者。彼からしばしば「悪性を手術(プロの殺し屋を殺す)」するように命令されるほどの超一流のプロですからそりゃなかなかやめさせてはくれないですよね。そのあたりの仕事の描写は、今までの殺し屋のやり方よりリアルでお見事ですが、愛すべき「蝉」や凄みのある「鯨」たちのようなキャッチとなるような個性がないのがやや残念。。
その分伊坂がキャッチとしたのは実生活の表の顔なのですが。。。
さて、題名のAXは何を意味するのか?「蟷螂の斧」、すなわち蟷螂が自らの斧で敵わない相手に立ち向かうことを意味するのですが、その相手とはなんと妻。ようするに恐妻家なのです。
息子にも見透かされ同情されるくらい妻に怖れこびへつらっている様子が、一応伊坂らしいユーモアで語られ、裏の顔との対比で情けない表の日常を描こうという意図は十分わかるのですが、ありふれた設定で個人的にはあまり笑えませんでした。
ですから雑誌に掲載された前半三作「AX」「BEE」「Crayon」は今までのシリーズに比べると伊坂らしいパンチに欠けるな、と正直なところ思いました。
ただ、そこから一転して、書下ろしの後半二作「EXIT」「FINE」はさすがに力が入っており、思いがけない展開とその後を描きます。最後にあれほど殺し屋家業をやめたがっていた兜が、やめさせなかった「医者」へまいておいた罠がついに発動するあたりはさすが伊坂、と唸らせてくれます(ただし、正統派ミステリファンにはありえないと一蹴されるかもしれませんが)。最後の一文もほろりとさせてくれます。
というわけで、書下ろしで何とか挽回したものの、前二作のようなダイナミズムを期待し過ぎてはちょっと肩透かしを食らってしまいますのでご注意を。でも人間味あふれる殺し屋を描き続ける伊坂幸太郎、彼のファンにはやっぱりマストの一冊でしょう。
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馬鹿馬鹿しくなったので退会しました。2021/10/8
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- 出版社:KADOKAWA
- ページ数:312
- ISBN:9784041059463
- 発売日:2017年07月28日
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