ゆうちゃんさん
レビュアー:
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フランクは食堂の経営者ニックに気に入られ従業員となる。だが彼がそこで働く真の理由は、ニックの妻コーラに惚れたからだ。ふたりはニックの殺害に成功し、紆余曲折の後、最後は分かり合えたはずだが・・。
こちらも「やしなおし世界文学」の一冊。本書も自分には、映画も含め題名だけ知っていて中身はほぼ知らない作品のひとつであった。
話はフランク・チェンバーズが、食堂(レストランと言う言葉よりこちらの方が相応しそうな店)ツイン・オークス・タバーンに入るところから始まる。フランクは風来坊、ギリシャ移民の店主のニック・パパダキスにここで働かないか、と誘われ就職する。続きを読むと彼は頭がよく、有能そうである。彼が就職したのは店主に気に入られたこともあるが、ニックの妻コーラに一目ぼれしたからだ。ふたりはすぐ惹かれ合い、最初は駆け落ちしようとした。だがアイオワから映画デビューを夢見てカリフォルニアにやって来たコーラが見た現実は甘くなく、彼女はフランクに惹かれているとはいえ流れ者生活は嫌だった。ふたりでニックを殺そうとしたが失敗し、ある偶然のお陰でニックは怪我をしただけで済んだうえ、被害者自身が殺人ではなく事故だと思い、事件はそのように処理された。フランクは店を出て一度は姿を消すが、市場でニックにばったりと出会い、再度、店への就職を勧誘される。フランクは返事を保留し、ニックとコーラが計画しているサンタバーバラへの旅行に同行し、そこでじっくり話し合うことになった。コーラにしてみれば忘れたかったフランクの再登場で良い迷惑である。だが依然として、コーラにとってニックは「脂ぎって臭いし、彼の前で可愛い女性の芝居を続けねばならない」夫だった。その夫からコーラは子どもが欲しいと言われている。フランクは、コーラと示し合わせ交通事故に見せかけた二度目の殺害を計画し実行する。ニックは死に、フランクは大けがをした。一見、酔っ払い運転の挙句の事故に見せかけた工作は成功しかけたが、鋭い検察官サケットは、フランクもコーラも臭いと思った。病室に押しかけ、大怪我をしたフランクを半ば脅かし、彼もそれに屈してコーラが夫の殺害を計画し、彼もその巻き添えになったという告訴状に署名してしまった。ふたりにとって救世主のように現れたのが弁護士カッツだった。彼の弁舌と機転で、事件はコーラの過失致死、執行猶予付の交通事故事件として処理された。ふたりはニックの経営していた店に戻って生活を始めたが、裁判でお互い裏切ったことを知っており、以前の愛情は取り戻せそうもなかった。しかも、カリフォルニアを出たいフランクと、ニックの店を引き継いでここで食堂経営者として成功したいコーラとの間で今後の生活をどうするのか意見が合わない。いずれにしてもコーラは、執行猶予中はカリフォルニアを出られない。食堂の経営が軌道に乗り出した頃、コーラの母が危篤になり彼女はアイオワに戻った。その間、フランクはマッジと言う女性とメキシコ旅行に行く。しかし、そのままマッジと暮らすようなことはせず、今やコーラのものとなった食堂に舞い戻った。祝杯を挙げようというフランクに、コーラは、酒は飲まないことにしたという。その意外な理由とは・・。
本書は俺、つまりフランクの手記だということが末尾でわかる。徹頭徹尾フランクの視点で書かれ、恋人のコーラが何をどういう風に考えているのかは、彼女の言ったことからしかわからないし、言った通りに彼女が考えているかどうかもわからない。結末近く、読者には、コーラは言葉の背後に思考を隠すような真似はしていないとわかるのだが、最終章にフランクが吐露した言葉からすると、フランクがそれを額面通りに受け取っているかどうかがやや心許ない。その辺が作家の描き分けとして素晴らしいと感じた。
本書の書評で、多くのレビュアーの方が、これはミステリなのか、と問題提起されている。解説では「ハードボイルドに分類されているが、著者は納得していない」と書いてあった。僕は、犯罪小説と言うよりは、男女間の心情のすれ違いの機微を浮き立たせた小説に読めるのだが、犯罪小説にとられてしまうのは、途中の裁判の場面のどんでん返しがあまりにも巧妙だからではないかと思う。裁判の場面は僕にはオマケの要素に見えるが、それらの章ではパズルがあまりにも一致しすぎる。しかし、ミステリとして読むなら妙に都合の良い偶然が多々あり、これほど見事な裁判場面が書ける著者なら、本当のミステリにしようと思えば、そんな暗合をもっとうまく処理したのではないかと思う。それ故、著者はそう言ったことに拘泥せず、もっぱらフランクの心情とフランクから見たコーラの心情に焦点を当てているのではないかと思った。
話はフランク・チェンバーズが、食堂(レストランと言う言葉よりこちらの方が相応しそうな店)ツイン・オークス・タバーンに入るところから始まる。フランクは風来坊、ギリシャ移民の店主のニック・パパダキスにここで働かないか、と誘われ就職する。続きを読むと彼は頭がよく、有能そうである。彼が就職したのは店主に気に入られたこともあるが、ニックの妻コーラに一目ぼれしたからだ。ふたりはすぐ惹かれ合い、最初は駆け落ちしようとした。だがアイオワから映画デビューを夢見てカリフォルニアにやって来たコーラが見た現実は甘くなく、彼女はフランクに惹かれているとはいえ流れ者生活は嫌だった。ふたりでニックを殺そうとしたが失敗し、ある偶然のお陰でニックは怪我をしただけで済んだうえ、被害者自身が殺人ではなく事故だと思い、事件はそのように処理された。フランクは店を出て一度は姿を消すが、市場でニックにばったりと出会い、再度、店への就職を勧誘される。フランクは返事を保留し、ニックとコーラが計画しているサンタバーバラへの旅行に同行し、そこでじっくり話し合うことになった。コーラにしてみれば忘れたかったフランクの再登場で良い迷惑である。だが依然として、コーラにとってニックは「脂ぎって臭いし、彼の前で可愛い女性の芝居を続けねばならない」夫だった。その夫からコーラは子どもが欲しいと言われている。フランクは、コーラと示し合わせ交通事故に見せかけた二度目の殺害を計画し実行する。ニックは死に、フランクは大けがをした。一見、酔っ払い運転の挙句の事故に見せかけた工作は成功しかけたが、鋭い検察官サケットは、フランクもコーラも臭いと思った。病室に押しかけ、大怪我をしたフランクを半ば脅かし、彼もそれに屈してコーラが夫の殺害を計画し、彼もその巻き添えになったという告訴状に署名してしまった。ふたりにとって救世主のように現れたのが弁護士カッツだった。彼の弁舌と機転で、事件はコーラの過失致死、執行猶予付の交通事故事件として処理された。ふたりはニックの経営していた店に戻って生活を始めたが、裁判でお互い裏切ったことを知っており、以前の愛情は取り戻せそうもなかった。しかも、カリフォルニアを出たいフランクと、ニックの店を引き継いでここで食堂経営者として成功したいコーラとの間で今後の生活をどうするのか意見が合わない。いずれにしてもコーラは、執行猶予中はカリフォルニアを出られない。食堂の経営が軌道に乗り出した頃、コーラの母が危篤になり彼女はアイオワに戻った。その間、フランクはマッジと言う女性とメキシコ旅行に行く。しかし、そのままマッジと暮らすようなことはせず、今やコーラのものとなった食堂に舞い戻った。祝杯を挙げようというフランクに、コーラは、酒は飲まないことにしたという。その意外な理由とは・・。
本書は俺、つまりフランクの手記だということが末尾でわかる。徹頭徹尾フランクの視点で書かれ、恋人のコーラが何をどういう風に考えているのかは、彼女の言ったことからしかわからないし、言った通りに彼女が考えているかどうかもわからない。結末近く、読者には、コーラは言葉の背後に思考を隠すような真似はしていないとわかるのだが、最終章にフランクが吐露した言葉からすると、フランクがそれを額面通りに受け取っているかどうかがやや心許ない。その辺が作家の描き分けとして素晴らしいと感じた。
本書の書評で、多くのレビュアーの方が、これはミステリなのか、と問題提起されている。解説では「ハードボイルドに分類されているが、著者は納得していない」と書いてあった。僕は、犯罪小説と言うよりは、男女間の心情のすれ違いの機微を浮き立たせた小説に読めるのだが、犯罪小説にとられてしまうのは、途中の裁判の場面のどんでん返しがあまりにも巧妙だからではないかと思う。裁判の場面は僕にはオマケの要素に見えるが、それらの章ではパズルがあまりにも一致しすぎる。しかし、ミステリとして読むなら妙に都合の良い偶然が多々あり、これほど見事な裁判場面が書ける著者なら、本当のミステリにしようと思えば、そんな暗合をもっとうまく処理したのではないかと思う。それ故、著者はそう言ったことに拘泥せず、もっぱらフランクの心情とフランクから見たコーラの心情に焦点を当てているのではないかと思った。
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神奈川県に住むサラリーマン(技術者)でしたが24年2月に会社を退職して今は無職です。
読書歴は大学の頃に遡ります。粗筋や感想をメモするようになりましたのはここ10年程ですので、若い頃に読んだ作品を再読した投稿が多いです。元々海外純文学と推理小説、そして海外の歴史小説が自分の好きな分野でした。しかし、最近は、文明論、科学ノンフィクション、音楽などにも興味が広がってきました。投稿するからには評価出来ない作品もきっちりと読もうと心掛けています。どうかよろしくお願い致します。
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- 出版社:光文社
- ページ数:243
- ISBN:9784334752958
- 発売日:2014年07月10日
- 価格:950円
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