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ホセさん
ホセ
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「Ilha Formosa!(なんて美しい島!)」 と発見した船員が発した事から、「美麗島」という別名を持つ、台湾の紀行である。
137 乃南アサ 「美麗島紀行」

「Ilha Formosa!(なんて美しい島!)」
と発見した船員が発した事から、「美麗島」という別名を持つ、台湾の紀行である。
乃南アサが訪れ、話を聞いて調べていく様から、「そこにどんな人が居て、何が起ったのか」を知りたい執念が伝わってくるし、
「台湾で起こった事から、その頃の日本がどうだったかを考えてみる」という起こし方には大変説得力がある。
優れたルポルタージュとも言える。

終戦の50年前の明治27年に、台湾は割譲されて日本の植民地支配下になる。
日本はその僅か40年前に日米和親条約を結んだばかり。ペルリである。
欧米列強に猛烈に追いつこうとする日本が、その最先端の技術と人材を台湾へ送り込み、近代化を進めていく。
当時は東京よりも経済・景気で上回っていたとも言われている。
ダム、発電所、灌漑、建物、神社跡などを乃南は訪ね、関わった人達から話を聞いていく。
日本人から優しくされたり、差別もされるが、一様に「技術を持ってきて、一生懸命やった」と日本人を評価している。

廃れた元神社が、今は違法入国者の収容所になっているが、神木だった黒松が枯れそうになったら手厚い保護を看守達から受けて生き返った。

米軍に撃墜されながら、村への墜落を回避して散った若き戦闘員が、村で祀られている。
今でも毎日お供えが替えられて、徴兵された若者が親と参拝に来ている。

ある農村では古い井戸のポンプの機械が日本製である事を見つける。
乃南アサが非凡なのは、汲んだ冷たい水を手にかけて「この数十年間に同じ水をかけてきた、沢山の農作業に汚れた手を想像する」ところに象徴されている。
徹底的に「人」に拘り、彼らを想像する。
そして「人」から、後ろにいる「社会」を思い、それらの繋がりである「歴史」を見てみようというフィールドワークだ。私はこの手法が大好きだ。

もう一つこの島を語る切り口は、日本が敗戦撤収した後に乗り込んで来た本土の中国人(外省人)との動乱の時代だ。
闇タバコを売っていた女性が官憲に重症を負わされた事を機に動乱「2.28事件」が起こり、それをきっかけに政府は粛清を開始する。
28000人が処刑され、その後38年もの間この島は戒厳令下にあった。
今でも選挙で「彼の祖父は日本に与して働いてた。その一家の男だ。」といったアンチプロモーションが出るほど、本省人と外省人の溝は深い。

ホウ・シャオシェンが、粛清が開始された頃を描いた名作「悲情城市」は、
美しい九份の町を舞台に、光と影のコントラストがとても冴えているのだが、そのストーリーは悲しすぎる。
この映画が、戒厳令解除のわずか2年後の1989年に世に出されたとは知らなかった・・・
(横道だが、この頃にチャン・イーモウ「紅いコーリャン」、ジョン・ウー「男たちの挽歌」と、中国系監督が軒並み頭角を現し、東京に居た映画バカは何も知らずに喜んでいたものだ。)

乃南アサは、台湾の原住民の視点にもアプローチしていく。
かつてはポルトガル、スペインに、そして中国からの多くの移民に追いやられた格好の原住民達は、
山地サバイバル能力が極めて高い事から、戦時中の日本軍に重宝され「高砂隊」などと名付けられる。
その生き残りの老爺は、自分が日本軍に利用されたにも関わらず、重用されていた頃の話を懐かしそうに話している。

そもそも乃南アサが台湾に強い興味を持ったのは、2011年の東日本大震災の時の台湾からの義援金の多さだったそうだ(私も当時驚いた)。
1位のアメリカと大して変わらない額を、その10%にも満たない人口2300万人の台湾が送ってくれたのは一体どうしてなんだろうと。

小学校低学年の頃、祖父の家の一間には台湾留学生が入れ替わり下宿していた。3人だったか。
私の日本語レベルが丁度良かったようで、彼女らに時折遊んでもらった。
若い美しさが眩しかった一方で、わずかな「哀しさ」が皆に少し漂っていたように覚えている。
彼女たちが故郷を離れた故の哀しさか、それともその当時の台湾に溜まってきていた哀しさなのだろうか。
私も、まだ訪れた事がない「台湾」へ行ってみなければいけないようだ。

乃南アサは台湾を称して言う。
「この島はまだ一度も独立した事がない」

(2015/12/23)
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ホセ
ホセ さん本が好き!1級(書評数:667 件)

語りかける書評ブログ「人生は短く、読むべき本は多い」からの転記になります。
殆どが小説で、児童書、マンガ、新書が少々です。
評点やジャンルはつけないこととします。

ブログは「今はなかなか会う機会がとれない、本読みの友人たちへ語る」調子を心がけています。
従い、私の記憶や思い出が入り込み、エッセイ調にもなっています。

主要六紙の書評や好きな作家へのインタビュー、注目している文学賞の受賞や出版各社PR誌の書きっぷりなどから、自分なりの法則を作って、新しい作家を積極的に選んでいます(好きな作家へのインタビュー、から広げる手法は確度がとても高く、お勧めします)。

また、著作で前向きに感じられるところを、取り上げていくように心がけています。
「推し」の度合いは、幾つか本文を読んで頂ければわかるように、仕組んでいる積りです。

PS 1965年生まれ。働いています。

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