ホセさん
レビュアー:
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処女作短編が7つ。
翻訳のスクリーニングを通しても、じっくりと書かれた一つ一つの単語や文章がのしかかってくる時がある。
それが良く分からなかった編もあればビシッとハマる編もあったから、挑戦してもいいかも。
226 アレクサンダー マクラウド 「煉瓦を運ぶ 」
アリステア・マクラウドの息子のデビュー作で、短編が7つ。
7 つに17年掛かったそうだ。
翻訳のスクリーニングを通しても、じっくりと書かれた一つ一つの単語や文章がのしかかってくる時がある。
これをちょっと良く分からなかった編もあれば、ビシッとハマる編もあったから、本読みを自負する人は、挑戦みていいんじゃないかと思う(^^)/
新聞の書評で見つけた。
オヤジさんのアリステア・マクラウドの短編を多分ひとつ二つ読んでいるだけだが、作者の名前は強烈に覚えていて、
評文も気に入って読む事にしたよ。
一編目の「ミラクル・マイル(Miracle mile)」から、なかなか読ませる。
全米選手権に届くレベルの1500m走の選手が主人公なのだが、明らかに本人がその競技を経験していなければ分かるはずもない描写も多く、段取りやら彼らの気持ちの流れがよくよく伝わってきた。
テーマは違うが、アラン・シリトー「長距離走者の孤独」を思い出したよ。
「僕はよく、トラック競技の選手たちがバスに満載されて競技場へ向かう様を、昔風のサーカス列車みたいだと思ったものだ。」
そして、お話しは彼の「ドサ回り」のルームメイトのバーナーが引っ張る事になり、
バーナーが大活躍の後にとんでもない事をしてしまうところで、プツンと終わってしまう。
アメリカの短編を読んでいて感心するひとつに、こうして「プツンと終わる」ところがある。
なかなか日本の小説ではお目に掛かれない。
映画や音楽の締めではお会いすることがあるけどね。
それは「詩はあっても、俳句も和歌も五言絶句もないアメリカ人は、こういう短編の終わり方で余韻を引きろうとしている」というではないかと、私は思っている。
強い印象を残したのは「良い子たち(Good Kids)」だ。
長男、双子の次男三男に四男が、いつも仲良く遊んでいる家の向いに、四男より下の7歳のレジーが母親と引っ越してくる。
仲間に入れて貰いたいレジ-は「僕はレジー・バーソロミュー・ラロックと言います」と胸を張って自己紹介する。
双子の一人が「もしかして頭が弱い奴かも・・・」と小声で言い、暫くは無視を決め込むのだが、
レジーは直ぐに仲間に入れて貰えなくても、じっと見ていたり、四人のホッケーの球を拾いに行ったりして、早晩迎えられる事になる。
一緒に過ごす間にはケンカも起こり、特にレジーと次男が殴りあって血をだしてしまう時が見どころだ。
そこでのレジーの振る舞いがとっても大人で、この子の今までの短い人生の厳しさがドンと伝わってきて泣けた。
そういった仕掛を、アレグサンダー・マクラウドは沢山している。
高校の夏休みに、大人に混じって煉瓦運びのバイトをする「煉瓦を運ぶ(Light Lifting)」も、
の毎日を金を稼ぐためにドラッグストアの配達人をしている中学生を描いている「ループ(The Loop)」も、
(特に若い世代が)働いている現場をとても丁寧に描いていて、たいへん好ましい。
私はどうも仕事の現場を好む作家、特に頭だけでなく体も使う職人的労働の場面を好んで書く作家に強く傾倒してしまう。
彼らには飯嶋和一や木内昇、帚木蓬生、佐々木譲らが居る。
解説によると父アリステアが生まれたケープ・ブレトン島をお話しの舞台にしているのに対して、息子アレックスはあたかも縄張りがあるかのように、自分が父に育てられたウィンザーだけを舞台にこの短編集を編んだという。
お話しの背景の印象は、良さげな時代が少々と落ち目の時代が沢山だ。
それはデトロイト郊外であるこの土地が、アレックスがこの7編を書きあげるまでの17 年間に、経験した下り坂によるものなのかもしれないと思い至った。
アレクサンダー・マクラウドは、
「人がある行動をすることによって、その後の人生が変わってしまう」
そういう瞬間に興味があるとインタビューで答えている。
そんな作家のお話しに、また是非お会いしてみたと思わないかい?
(2016/10/23)
アリステア・マクラウドの息子のデビュー作で、短編が7つ。
7 つに17年掛かったそうだ。
翻訳のスクリーニングを通しても、じっくりと書かれた一つ一つの単語や文章がのしかかってくる時がある。
これをちょっと良く分からなかった編もあれば、ビシッとハマる編もあったから、本読みを自負する人は、挑戦みていいんじゃないかと思う(^^)/
新聞の書評で見つけた。
オヤジさんのアリステア・マクラウドの短編を多分ひとつ二つ読んでいるだけだが、作者の名前は強烈に覚えていて、
評文も気に入って読む事にしたよ。
一編目の「ミラクル・マイル(Miracle mile)」から、なかなか読ませる。
全米選手権に届くレベルの1500m走の選手が主人公なのだが、明らかに本人がその競技を経験していなければ分かるはずもない描写も多く、段取りやら彼らの気持ちの流れがよくよく伝わってきた。
テーマは違うが、アラン・シリトー「長距離走者の孤独」を思い出したよ。
「僕はよく、トラック競技の選手たちがバスに満載されて競技場へ向かう様を、昔風のサーカス列車みたいだと思ったものだ。」
そして、お話しは彼の「ドサ回り」のルームメイトのバーナーが引っ張る事になり、
バーナーが大活躍の後にとんでもない事をしてしまうところで、プツンと終わってしまう。
アメリカの短編を読んでいて感心するひとつに、こうして「プツンと終わる」ところがある。
なかなか日本の小説ではお目に掛かれない。
映画や音楽の締めではお会いすることがあるけどね。
それは「詩はあっても、俳句も和歌も五言絶句もないアメリカ人は、こういう短編の終わり方で余韻を引きろうとしている」というではないかと、私は思っている。
強い印象を残したのは「良い子たち(Good Kids)」だ。
長男、双子の次男三男に四男が、いつも仲良く遊んでいる家の向いに、四男より下の7歳のレジーが母親と引っ越してくる。
仲間に入れて貰いたいレジ-は「僕はレジー・バーソロミュー・ラロックと言います」と胸を張って自己紹介する。
双子の一人が「もしかして頭が弱い奴かも・・・」と小声で言い、暫くは無視を決め込むのだが、
レジーは直ぐに仲間に入れて貰えなくても、じっと見ていたり、四人のホッケーの球を拾いに行ったりして、早晩迎えられる事になる。
一緒に過ごす間にはケンカも起こり、特にレジーと次男が殴りあって血をだしてしまう時が見どころだ。
そこでのレジーの振る舞いがとっても大人で、この子の今までの短い人生の厳しさがドンと伝わってきて泣けた。
そういった仕掛を、アレグサンダー・マクラウドは沢山している。
高校の夏休みに、大人に混じって煉瓦運びのバイトをする「煉瓦を運ぶ(Light Lifting)」も、
の毎日を金を稼ぐためにドラッグストアの配達人をしている中学生を描いている「ループ(The Loop)」も、
(特に若い世代が)働いている現場をとても丁寧に描いていて、たいへん好ましい。
私はどうも仕事の現場を好む作家、特に頭だけでなく体も使う職人的労働の場面を好んで書く作家に強く傾倒してしまう。
彼らには飯嶋和一や木内昇、帚木蓬生、佐々木譲らが居る。
解説によると父アリステアが生まれたケープ・ブレトン島をお話しの舞台にしているのに対して、息子アレックスはあたかも縄張りがあるかのように、自分が父に育てられたウィンザーだけを舞台にこの短編集を編んだという。
お話しの背景の印象は、良さげな時代が少々と落ち目の時代が沢山だ。
それはデトロイト郊外であるこの土地が、アレックスがこの7編を書きあげるまでの17 年間に、経験した下り坂によるものなのかもしれないと思い至った。
アレクサンダー・マクラウドは、
「人がある行動をすることによって、その後の人生が変わってしまう」
そういう瞬間に興味があるとインタビューで答えている。
そんな作家のお話しに、また是非お会いしてみたと思わないかい?
(2016/10/23)
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語りかける書評ブログ「人生は短く、読むべき本は多い」からの転記になります。
殆どが小説で、児童書、マンガ、新書が少々です。
評点やジャンルはつけないこととします。
ブログは「今はなかなか会う機会がとれない、本読みの友人たちへ語る」調子を心がけています。
従い、私の記憶や思い出が入り込み、エッセイ調にもなっています。
主要六紙の書評や好きな作家へのインタビュー、注目している文学賞の受賞や出版各社PR誌の書きっぷりなどから、自分なりの法則を作って、新しい作家を積極的に選んでいます(好きな作家へのインタビュー、から広げる手法は確度がとても高く、お勧めします)。
また、著作で前向きに感じられるところを、取り上げていくように心がけています。
「推し」の度合いは、幾つか本文を読んで頂ければわかるように、仕組んでいる積りです。
PS 1965年生まれ。働いています。
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- 出版社:新潮社
- ページ数:281
- ISBN:9784105901271
- 発売日:2016年05月31日
- 価格:2052円
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