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ホセさん
ホセ
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無責任な言い方だが「もしもこれが人類の終わりだったら、それはそれでいいんじゃないかな」と思った、
208 川上弘美  「大きな鳥にさらわれないよう」

地球ならきっと随分と遠い未来、世紀末といっていいようなところで川上弘美が短編連作に筆を振るっている。
明らかに萎んでいくであろう明日が書かれているのに、なんだか牧歌的なのは川上弘美のユーモアを引っ張ってくる力のなせる技だろう。
無責任な言い方だが「もしもこれが人類の終わりだったら、それはそれでいいんじゃないかな」と思った、
いや、川上弘美に思わされたのだろう♪♪

前述197「古道具 中野商店」が卓抜したラブ・ストーリーだったので、新作の中身も何も見ずに読む事にした。

短編を2つ3つ読んで、これは多分人間ではない生物の世界をモチーフにしてるのだろうと想像していた。
だって、大きな母は凄く長生きだし、そこから沢山の自分と同じ子が生まれてる。
普通の母は10人もの子を抱え、かれらが成人するとあっさりと独立させてしまう。
その後母に会いにくる子は少なく、会いに来た子も1-2度で、短命で逝ってしまう。
これはどう考えても「ミツバチ」の世界じゃあない?

「見守り」という役割が再三出てきて、少し分かってきた。
「見守り」はいろんな職業についてる、共通しているのはそこに「自分より若い自分」がやってくると、引き継ぎをして次のところへ旅立つ。
こうした玉突きは一生で何度もある訳ではなく、旅立つ先は三途の川の向こう側だったりもする。

回転木馬の係員だった「見守り」は、若き自分が、自分とはちょっと違うところに少し驚きながらも面白く見ている。
彼の引き継ぎはこうだ。
「注意深く観察する事。結論は直ぐに出さない事。けれど、どんな細かなこともおそろかにしないこと」
こうした「見守り」を幾つかの短編で見ていくうちに、どうやら彼らは「クローン」なのだと分かってくる。

14の短編は、各々違った人の視点で書かれているが、共通の登場人物が居たり、もう亡くなったけど語り継がれていたりする。
「見守り」だけではなく、随分と変異した人類の視点だったり、「母」の視点だったり。
期待していた「大きな母」の視点は出てこなかったが、そこに最も近い最後の目撃者が、物語をそれは淡々と締めくくっている。

どうも同じ自分は沢山居るようだが、人口密度は低く文明は一度崩壊したようで、
中世のような世界で人びとは生きている。
「俺は食べたら美味いらしいぞ、ちょっとこの先だけでも食ってみるか?」と誘う男は、その生態描写から、明らかに植物の能力を宿した動物だと思われる(現に死んでから数ヶ月で完全に分解されているし)。
他人の意識に入ってくる者や、予測する者、治す者、何代にも渡って記憶も引き継ぐクローン、三歳から眠らなくなった男、人工知能と共生する人、などなど特殊能力も出てくるが、どれもが小道具としてサラッとお話しを引き立てるに留めているところもいい。
川上弘美はそんなアイディアを前面に押し出してくる人ではない。

人間ではない、かなり高等な主人公は人間についてこう表している。
「あなたたちは、何回でも言いますが、ほんとうに判断力に欠けています。そして、柔軟性にも欠けています。」

そうなんだよなぁ。
人間って、素晴らしく「集団で」適応して進化してきたんだけど、その強みは「同種と協調する」ところだと思っている。
だけどその反面、いつの時代でも人間は殺し合いを止める事がない。
同種を栄養として食ってしまうケースはままあるし、動物の中でも生まれた我が子を殺す父親も結構居る。
けれど、人間のように単純に同種の他の個体を殺すだけというのは聞いた事がない(知ってる?)。

この先、結構近い未来に、この「協調」なのか、それとも「独立・分断」なのか、という事が問われて、
その結論というか多数決だか、その時のジャイアンが決めた事だかが、
それから先長らくの我々の未来を大きく変えていく気がしてるんだけど・・・どう思う?
個々でも、人種でも、国でもなくて、「種」として生き残っていくという視点と発想が、もっともっと強まらないとヤバいよね。

ひょっとしてそんな事を川上弘美は、表題「大きな鳥にさらわれないよう」に託していてたりして♪

(2016/8/20)
PS 筒井康隆の帯「これは作者の壮大な旅である」ってのもイイ
PPS とある付箋には「ハリ・セルダン?」と書いていた⇒アシモフSFの心理歴史学者ね
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ホセ
ホセ さん本が好き!1級(書評数:667 件)

語りかける書評ブログ「人生は短く、読むべき本は多い」からの転記になります。
殆どが小説で、児童書、マンガ、新書が少々です。
評点やジャンルはつけないこととします。

ブログは「今はなかなか会う機会がとれない、本読みの友人たちへ語る」調子を心がけています。
従い、私の記憶や思い出が入り込み、エッセイ調にもなっています。

主要六紙の書評や好きな作家へのインタビュー、注目している文学賞の受賞や出版各社PR誌の書きっぷりなどから、自分なりの法則を作って、新しい作家を積極的に選んでいます(好きな作家へのインタビュー、から広げる手法は確度がとても高く、お勧めします)。

また、著作で前向きに感じられるところを、取り上げていくように心がけています。
「推し」の度合いは、幾つか本文を読んで頂ければわかるように、仕組んでいる積りです。

PS 1965年生まれ。働いています。

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