あかつきさん
レビュアー:
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平等を貴びながら格差を産み、その中で少しでも上に立つことを望む。
血縁でもない者に献身的になるかと思えば、同時に同族を憎み、殺すことをも躊躇わない。
我々の抱える矛盾は、極自然な獲得気質であるのだ。
昨日「パークアベニューの妻たち」をレビューしながらこの本を思い出した。
NHKスペシャルの「Human」を書籍化したものである。
何故、他のヒト科の兄弟たちと異なり、ホモ・サピエンスだけが生き残ったのか。
何故、ホモ・サピエンスだけが血縁を超えて集合体を作り、協力体制を築いたのか。
何故、ホモ・サピエンスだけが生存以外の理由で憎みあい、殺戮しあうのか。
その理由を、進化の道から考察する。
約700万年前、人類はチンパンジーと進化の袂を分かち、森から草原に足を踏み入れた。
森と異なり、捕食動物も多く食料は豊かではない草原で生きていくには、ある程度の数の集団に人口を増やさねばならない。
しかし、直立歩行に適した体に進化してしまったせいで、骨盤はねじれ、人類は難産を余儀なくされていた。
草原への進出――それには、コミュニティによる出産および子育ての協力が不可欠条件であり、その協力精神は、他のコミュニティと出会った時には相互に食料を分かち合うという体制の礎となった。
ここで、人類は「協力」という武器を手に入れることになる。
約10万年前、ホモ・サピエンスは故郷・アフリカから離れた第一歩をアラビア半島に記す。
しかし、既に進化の兄弟たち(ネアンデルタール人やホモ・エレクトスら)が出アフリカを果たしており、ホモ・サピエンスは一旦アフリカに撤退を余儀なくされた。
二度目の出アフリカを成功させたのは、約4万年前。
この期間に、ホモ・サピエンスは投擲具という「飛び道具」を手に入れていた。
「飛び道具」は力の弱いホモ・サピエンスに食料をもたらし、食料は人口の増加をもたらした。
人口の増加はさらなる食料を要し、ホモ・サピエンスは爆発的に地球上へ進出し、間接的・若しくは直接的に進化の兄弟たちを滅ぼしていく。
「飛び道具」は、大きくなったコミュニティを纏めるためにも役に立った。
直接的な道具より、良心の呵責なく、同族に「罰」を与えることができるからだ。
ホモ・サピエンスというものは、投擲具といい鉄条網といい殺虫剤といい、動物に対して開発したものを、同族に対して使わずにいられない種のようだ。「飛び道具」は、弓、弩、投石器、大砲、銃、ランチャー、大陸弾道ミサイル、核爆弾と今なお進化しつつある。
約1万年前、氷河期が終わり、温暖な気候のもとホモ・サピエンスは定住化を始める。
定住とは、「保有」の始まりだ。
土地の保有、作物の保有、家畜の保有。
「保有」とは、他者と自己の明確な区別であり、そこには争いが産まれる。
原始人類に最初に産まれた「協力」の心は、数百万年の進化の果てに「争い」を産んだわけだ。
身内に対し献身的であれば、同時に身内以外には攻撃的となる。
この献身と攻撃の二面性を有したものが生き残るという宿命を、ホモ・サピエンスは課せられているわけだ。
約6200年前、ホモ・サピエンスは都市を築く。
私が考古学に進もうと思っていた20年前は、世界最古の都市と言えばウル(ク)だったが、今ではテル・ブラクという都市が最古の都市であるという。ショック。
ともあれ、「保有」は「格差」を産み、もっとも多く「保有」するものは集団の頂点に立った。
都市は、格差社会の象徴なのだ。
原始人類の育てたモノを分かち合う心が、進化の果てに格差を産んでしまったとは皮肉な話だ。
「格差」を更に大きく広げたものは、貨幣の発明だった。
貨幣の発明後、分かち合いと平等を善しとしてきたこれまでの社会とは大きく異なる社会を、ホモ・サピエンスは生きることになる。
貨幣の介在する関係、コミュニティに頼らない生き方、――――個人主義。
そして個人の競争によって、ホモ・サピエンスは一気に発展を加速させて文明を産み、様々な機械を産み、たった数千年で宇宙へ進出した。
これまで、何百万年・数万年をかけて、ゆっくり進化の階を登っていたことを忘れたように。
協力しあうコミュニティー同族に罰を与える飛び道具ー保有することでの格差の誕生。
「平等」を貴びながら、「格差」を産み、その中で少しでも「上」に立つことを望む。
血縁でもない同族に献身的・協力的になることもできるのに、同時に自らの直接的な敵でもない同族を憎み、殺すことも躊躇わない。
我々ホモ・サピエンスの抱える矛盾は、進化の旅を思えば、極自然な獲得気質であるのだ。
NHKスペシャルの「Human」を書籍化したものである。
何故、他のヒト科の兄弟たちと異なり、ホモ・サピエンスだけが生き残ったのか。
何故、ホモ・サピエンスだけが血縁を超えて集合体を作り、協力体制を築いたのか。
何故、ホモ・サピエンスだけが生存以外の理由で憎みあい、殺戮しあうのか。
その理由を、進化の道から考察する。
約700万年前、人類はチンパンジーと進化の袂を分かち、森から草原に足を踏み入れた。
森と異なり、捕食動物も多く食料は豊かではない草原で生きていくには、ある程度の数の集団に人口を増やさねばならない。
しかし、直立歩行に適した体に進化してしまったせいで、骨盤はねじれ、人類は難産を余儀なくされていた。
草原への進出――それには、コミュニティによる出産および子育ての協力が不可欠条件であり、その協力精神は、他のコミュニティと出会った時には相互に食料を分かち合うという体制の礎となった。
ここで、人類は「協力」という武器を手に入れることになる。
約10万年前、ホモ・サピエンスは故郷・アフリカから離れた第一歩をアラビア半島に記す。
しかし、既に進化の兄弟たち(ネアンデルタール人やホモ・エレクトスら)が出アフリカを果たしており、ホモ・サピエンスは一旦アフリカに撤退を余儀なくされた。
二度目の出アフリカを成功させたのは、約4万年前。
この期間に、ホモ・サピエンスは投擲具という「飛び道具」を手に入れていた。
「飛び道具」は力の弱いホモ・サピエンスに食料をもたらし、食料は人口の増加をもたらした。
人口の増加はさらなる食料を要し、ホモ・サピエンスは爆発的に地球上へ進出し、間接的・若しくは直接的に進化の兄弟たちを滅ぼしていく。
「飛び道具」は、大きくなったコミュニティを纏めるためにも役に立った。
直接的な道具より、良心の呵責なく、同族に「罰」を与えることができるからだ。
ホモ・サピエンスというものは、投擲具といい鉄条網といい殺虫剤といい、動物に対して開発したものを、同族に対して使わずにいられない種のようだ。「飛び道具」は、弓、弩、投石器、大砲、銃、ランチャー、大陸弾道ミサイル、核爆弾と今なお進化しつつある。
約1万年前、氷河期が終わり、温暖な気候のもとホモ・サピエンスは定住化を始める。
定住とは、「保有」の始まりだ。
土地の保有、作物の保有、家畜の保有。
「保有」とは、他者と自己の明確な区別であり、そこには争いが産まれる。
原始人類に最初に産まれた「協力」の心は、数百万年の進化の果てに「争い」を産んだわけだ。
身内に対し献身的であれば、同時に身内以外には攻撃的となる。
この献身と攻撃の二面性を有したものが生き残るという宿命を、ホモ・サピエンスは課せられているわけだ。
約6200年前、ホモ・サピエンスは都市を築く。
私が考古学に進もうと思っていた20年前は、世界最古の都市と言えばウル(ク)だったが、今ではテル・ブラクという都市が最古の都市であるという。ショック。
ともあれ、「保有」は「格差」を産み、もっとも多く「保有」するものは集団の頂点に立った。
都市は、格差社会の象徴なのだ。
原始人類の育てたモノを分かち合う心が、進化の果てに格差を産んでしまったとは皮肉な話だ。
「格差」を更に大きく広げたものは、貨幣の発明だった。
貨幣の発明後、分かち合いと平等を善しとしてきたこれまでの社会とは大きく異なる社会を、ホモ・サピエンスは生きることになる。
貨幣の介在する関係、コミュニティに頼らない生き方、――――個人主義。
そして個人の競争によって、ホモ・サピエンスは一気に発展を加速させて文明を産み、様々な機械を産み、たった数千年で宇宙へ進出した。
これまで、何百万年・数万年をかけて、ゆっくり進化の階を登っていたことを忘れたように。
協力しあうコミュニティー同族に罰を与える飛び道具ー保有することでの格差の誕生。
「平等」を貴びながら、「格差」を産み、その中で少しでも「上」に立つことを望む。
血縁でもない同族に献身的・協力的になることもできるのに、同時に自らの直接的な敵でもない同族を憎み、殺すことも躊躇わない。
我々ホモ・サピエンスの抱える矛盾は、進化の旅を思えば、極自然な獲得気質であるのだ。
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色々世界がひっくり返って読書との距離を測り中.往きて還るかは神の味噌汁.「セミンゴの会」会員No1214.別名焼き粉とも.読書は背徳の蜜の味.毒を喰らわば根元まで.
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- 出版社:KADOKAWA/角川書店
- ページ数:559
- ISBN:9784041012680
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