書評でつながる読書コミュニティ
  1. ページ目
詳細検索
タイトル
著者
出版社
ISBN
  • ログイン
無料会員登録

yukoさん
yuko
レビュアー:
心とからだと、どっちを殺した方が悪いの?
ある日、吉永の元に刑事がやって来ます。

離婚して、元妻と暮らしている息子の翼のクラスメートの少年が殺された事件が起き、
クラスメートや関係者に話を聞いて回っているというのです。


吉永と、元妻の純子は、翼が小学生の時に離婚しました。
最初は月に一度吉永は翼と会っていたのですが、最近では三か月に一度ぐらいしか会っていませんでした。


純子から切羽詰まった電話が。
翼が、クラスメートを殺したと、逮捕されたというのです。


少年犯罪に詳しい弁護士を探して、翼の件を依頼する吉永。
しかし、翼は一切何も話そうとしない・・・


刻々と迫る少年審判の日。
会社まで押しかけてくるマスコミ。
ショックのあまり失踪してしまう母親の純子。
別れを切りだしてきた恋人。
欠勤ばかりで仕事にならず、とうとう会社に翼のことがばれてしまい・・・

仕事を辞めようかと思う吉永に、今後の生活があるから、絶対仕事を辞めてはならないと、そしてきちんと食べろと、父親が倒れている場合ではないと諭す、弁護士の神崎。


一体この殺人事件の真相は何なのか。
そして、
罪を償うということは、どういうことを意味するのか・・・・


同じ薬丸岳の『誓約』もそうでしたし、『罪のあとさき』もそうでしたが、
罪を償うということは、どういうことなのか?
ということは、おそらくどれだけの人がどれだけたくさんの物語を書こうとも、
実際に起きた事件の真相を追い続けようとも、
絶対に答えは出ないことなのだと思います。

そして答えがわからないからこそ、誰しもが真剣に考えなくてはならないことで・・・


物語の中では、被害者の父親も、加害者の父親も、事件が起きて初めて息子に向き合い・・・
それでは遅いんだと思うんだけれども、
でも、きっと事件が起きてからも、子供に向き合うことから逃げる親はたくさんいるでしょうし、それよりはきっとましなのだと思うけれど、
でも親たちは、本当にどうしたらいいのか途方にくれてしまうんですよね。

まだ被害者側は、憎む対象がはっきりしている分だけ気持ちの持っていきようはあるけれど、
加害者側の気持ちは、それこそどうしようもないままにただただ苦しく重たいだけで。


息子の翼は、父親に問います。


「心とからだと、どっちを殺した方が悪いの?」


物語の最後に、吉永は息子にその答えを言います。

心を殺されたから起きてしまった悲惨な出来事だったのかもしれないれど、
からだを殺されてしまったら、もう何も言い返すことすらできないのだと、
殺されてしまった人を愛する周りの人の心をも殺してしまったのだと。


それでも、
世間の誰もが少年Aとして翼を憎んだととしても、
自分だけは翼を愛し続けるしかない、と・・・



人を殺した過去が消えることはないし、奪った命は元には戻らない。
それでも、
我が子を愛さないなんてできない。

父として、できることは、息子を一人にしないことなのだと、ラストで吉永は決意します。


罪を償うということは、どういうことなのか。

正解は一つではないし、
被害者側と加害者側ではまったく違った意味合いだと思います。

それでも、ラストは本当に良かったなと思える終わり方で、
今後の翼親子の人生は辛く厳しいものでしょうけれど、
親子で寄り添って生きていけば、なんとかやっていけるのではないかと、
自分の犯した罪を常に忘れずに、奪った命の分まで大切に生きて欲しいと、
そんな風に思えた物語でした。
お気に入り度:本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント
掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
yuko
yuko さん本が好き!1級(書評数:303 件)

仕事のことで鬱状態が続いており全く本が読めなかったのですが、ぼちぼち読めるようになってきました!

素晴らしい洞察:1票
参考になる:36票
共感した:4票
あなたの感想は?
投票するには、ログインしてください。

この書評へのコメント

  1. No Image

    コメントするには、ログインしてください。

書評一覧を取得中。。。
  • あなた
  • この書籍の平均
  • この書評

※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。

『Aではない君と』のカテゴリ

フォローする

話題の書評
最新の献本
ページトップへ