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かもめ通信
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イラク戦争の帰還兵だという著者が描くのは、自身の経験に基づいたノンフィクションではなく、いずれもイラク戦争をモチーフにした12篇の短編小説のはずなのだが、そのリアリティに圧倒されずにはいられない。
イラク戦争の帰還兵だという著者が描いたのは、自身の経験に基づいたノンフィクションではなく、いずれもイラク戦争をモチーフにした12篇の短編小説。

狙撃手として、遺体処理係として、歩兵として、従軍牧師として、あるいは復興事業に携わる公務員として等々、立場や考え方の違いはあっても、なんらかの形でイラク戦争に携わった男性を語り手としているという点では一致している物語たちは、戦争を賛美するものではなく、声高に反戦を訴えるものでもない。

反戦映画であるはずの『プラトーン』を観て、アメリカの多くの若者達が軍隊に志願したという作中で語られる皮肉なエピソードからも、著者があえて自分の主張を抑えて作品を描いていることがうかがえる。

語り手達の中には、職業として軍人を選んだ者もあれば、帰還後奨学金を受けるために戦地に赴いた者もある。
アラブ人だからこそ志願した者もあれば、町を出たかったから兵士となったという若者もいる。

帰還後直ちに受講する講義で教わることは「自殺するな、女房を殴るな」といったことで、戦地に赴いたヒーローとして、ちやほやされてモテ放題だといいながら、再会を待ちわびていたはずの妻や恋人の瞳におびえをみて当惑したりもする。

求められる美談や英雄譚など周囲から期待される類いの「戦争の話」続けることや、かみ合わない話題にうんざりする者。
わいせつな会話の中に見え隠れする抑圧された性。
PTSDのひと言で片付けられてしまうあれこれ。

見聞きしたもの、体験したこと、抱え込んでしまったもの、心の傷、身体の傷、帰還後の疎外感など、静かに淡々と語り続ける語り手たちの話に耳を傾けていると、記憶の底から浮かび上がってきたどこかで見た戦場の写真や戦地で傷ついた人々の映像と彼らの声が結びついて、まるで目の前で頭を抱えながら打ち明け話をする兵士たちがいるような気になってくる。

なんだろうこのリアリティ。
なんだろうこの哀しみと絶望感。
ブラックジョークに苦笑しながら、どうしてこんなに寂しい気持ちになるのだろう。

読みながら涙を流すようなことは全くなかったのに、こうして思い返すたびに胸がつまる。
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かもめ通信
かもめ通信 さん本が好き!免許皆伝(書評数:2235 件)

本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。

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この書評へのコメント

  1. かもめ通信2015-09-13 08:35

    <戦後70年:本をとおして戦争と平和について考えてみよう!>掲示板にて9月末まで開催中。
    ぜひお立ち寄り下さい。
    http://www.honzuki.jp/bookclub/theme/no225/index.html?latest=20

  2. かもめ通信2015-09-13 08:38

    ノンフィクションですがこちらもお薦め
    『帰還兵はなぜ自殺するのか』
    http://www.honzuki.jp/book/224632/review/135600/

  3. No Image

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