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献本書評
風竜胆さん
風竜胆
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パワフル70歳とヘナチョコ孫の大冒険!
 主人公の稲荷山誠造は、自分が一代で築き上げたハピネスビジネスローンの会長。相手が政治家であろうが、全くへつらうことなく、自分流を通すという強面で、そのうえドケチの70歳。ある日、彼の許を、一人の青年が、英語の子守唄が書かれた手紙を持って訪ねてきたところから事件は始まった。実は彼は、初めて会う誠造の孫の翔。キャリア官僚である娘の桃代は、自分の結婚問題がきっかけで、誠造とは絶縁状態になっていた。その桃代が1週間前から、家に帰ってこないというのだ。桃代と翔が住んでいる部屋は荒らされ、誠造も持っていたバッグを奪われる。桃代の勤務先の役所の対応もどうもおかしい。誠造と翔は、桃代の行方を探し求めるのだが、凶悪な暴力団が二人の前に立ちふさがる。

 物語はまさに波瀾万丈。翔に殺人事件の容疑がかかるというのは、まだ序の口。ニカラグア行の船に乗せられコカイン業者に売り飛ばされそうになったり、自衛隊をだまして哨戒機に乗り込んで東京に帰ってきたりと、もうほとんど冒険物語。この突拍子もない展開がなんとも面白いのだが、それ以上に、ピンチになっても決して諦めず、驚くような手段で切り抜けていくという、誠造のパワフルさが小気味良い。

 翔は、いかにもいまどきの若者という感じの、ヘナチョコ青年だったが、誠造といっしょに母を探すうちに、ヘナチョコ振りが影を潜めて、しだいに逞しくなっていく。変わったのは翔だけではない。誠造自身も、最初はどケチネタが目立っていたが、孫と娘を探すうちに、どケチネタは減っていき、最後には、自分を裏切った男にも、餞別代りに大金を渡すというような人情のあるところを見せる。この物語は、ただ二人が巨悪と対決するというだけの物語ではない。桃代の探索を通じて、強欲とヘナチョコだった二人が、変わっていく物語でもあるのだ。読者は、この二人の姿に、共感するところが多いのではないかと思う。

 本作品は、全国の書店員が「世に出したい」作品として選んだ、「本のサナギ賞」の優秀賞を受賞したとのことだ。しかし、「サナギ」ではなく、もう十分羽化しているのではないだろうか。作者の次回作品が楽しみである。
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風竜胆
風竜胆 さん本が好き!免許皆伝(書評数:2800 件)

昨年は2月に腎盂炎、6月に全身発疹と散々な1年でした。幸いどちらも、現在は完治しておりますが、皆様も健康にはお気をつけください。

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この書評へのコメント

  1. 風竜胆2015-06-25 19:21

    「ハピネスビジネスローン」という名前の響きが、とってもいかがわしいと思うのは、わたしだけでしょうか?w

  2. No Image

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