ホセさん
レビュアー:
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母と妹とニューヨークのパールストリートに越してきた、6歳のジャン・リュック少年のお話。
トレヴェニアンの遺作であり、初めての自伝的小説。
103 トレヴェニアン 「パールストリートのクレイジー女たち」(訳:江國香織)
母と妹とニューヨークのパールストリートに越してきた、6歳のジャン・リュック少年のお話。
トレヴェニアンの遺作であり、初めての自伝的小説。
振り返った時に、どれ程濃密に彼の中に記憶されていたのかという事がよく分かる丁寧な描写と、世界大恐慌と第二次大戦の間のアメリカの生活が生き生きと書かれている事で、
さっそく読者はジャン・リュックになり替わって、物語に入っていけることだろう。
「シブミ」「アイガー・サンクション」ら、スケールが大きくダイナミックなフィクションを楽しませてくれたトレヴェニアンは、2005年に他界されたが、その遺作が今春に出版された。
何年も家を空けた父がふらりと戻り、レイク・ジョージ・ヴィレッジからニューヨークのパールストリートに母子3人が着くところからお話しは始まる。
「緑色のケーキを買ってきてパーティをするから待っていろ」との書置きをドアに貼ったまま、父は結局姿を現さない。
給仕をやり、民主党からの社会福祉を受けながら、一家は月7ドル27セントのお金をやり繰りしながら生きていく。
家賃が21ドル、中古ラジオが7ドルの時代だ。
倹約と、節制の手法、工夫に富んだアイディアが沢山出てくる。何度も出てくるので$7.27を読者も忘れられなくなり、ダイム(¢10)やニッケル(¢5)、ましてやペニー(¢1)の硬貨の感触と大事さまでが身についてしまうほどだ。
厳しい節制だが、ボーイスカウトで慣れてるっちゃあ慣れてるし、バイト先のパリ修行帰りのオーナーから聞いた食材を大事にする話に通じるからだろうか、余り辛くならず楽しく読めた。
同じおかずを続けて出さず、1つ飛ばして出したり、次は違う形(煮詰めてサンドイッチにするとか)で出すのは、ボーイスカウトのキャンプでもやったよ。
でも、毎日ではキツかっただろうなぁ・・・。
母親のルビーが強烈だ。
インディアンとフランス系の混血である彼女は、これと決めたら相手が誰であろうと一歩も引かず、激情する事もある。
「凛」というより「頑」という言葉がぴったりで、突進力がある、痩せているのに。
「私の右腕」と呼びかけるジャン・リュックにも時に辛い言葉を投げるし、世への恨み節を吐く事も度々だ。
だが、そんな彼女も弱点があって、肺に病気を抱えている。
調子が悪くなると給仕の仕事を休むことになり、ジャン・リュックが湿布をしてあげて家事もこなす。ジャン・リュックは優しい。
そして、一家の資金繰りはひっ迫し、ご飯は配給の乾燥ポテトを使ったポテトスープばかりになる。
利発なジャン・リュックがだんだんと世界を広げていくのが伝わってくる。
まずはストリート近所の隣人たちと近づいたり離れたりなのだが、貧しいエリアなので奇人も少なくない。
そんな中で雑貨屋のユダヤ人ケーンさんが、ジャン・リュックの良い話し相手になってくれる。
学校で、そして教会で侍者になって、ジャン・リュックは少しづつ大きくなっていく。
質屋で分割払いで手に入れた真空管ラジオは、メインの登場人物のように物語で活躍する。
ニュース、ドラマ、歌謡番組と、当時のアメリカの様子は良く分かるし、
我々の子供時代のテレビのように余暇に欠かせない存在だったのだろう。
ジャン・リュックも家族も、幾つかの番組を毎週心待ちにしている。
そしてアパートの上階に流れの現場労働者のベンが越してきて、一家との交友が始まって、
お話しは徐々に転がり始めていく・・・・
最後には、トレヴェニアンがなぜこの物語を書いたのかが、よく分かる仕組みになっている。
聡明な人だ。
(2015/9/14)
PS江國香織の訳も良い。「とにかく手を挙げ、夢中で訳した。」とどこかのインタビューにあった。
きっとこの「夢中」が効いているのだろう。
母と妹とニューヨークのパールストリートに越してきた、6歳のジャン・リュック少年のお話。
トレヴェニアンの遺作であり、初めての自伝的小説。
振り返った時に、どれ程濃密に彼の中に記憶されていたのかという事がよく分かる丁寧な描写と、世界大恐慌と第二次大戦の間のアメリカの生活が生き生きと書かれている事で、
さっそく読者はジャン・リュックになり替わって、物語に入っていけることだろう。
「シブミ」「アイガー・サンクション」ら、スケールが大きくダイナミックなフィクションを楽しませてくれたトレヴェニアンは、2005年に他界されたが、その遺作が今春に出版された。
何年も家を空けた父がふらりと戻り、レイク・ジョージ・ヴィレッジからニューヨークのパールストリートに母子3人が着くところからお話しは始まる。
「緑色のケーキを買ってきてパーティをするから待っていろ」との書置きをドアに貼ったまま、父は結局姿を現さない。
給仕をやり、民主党からの社会福祉を受けながら、一家は月7ドル27セントのお金をやり繰りしながら生きていく。
家賃が21ドル、中古ラジオが7ドルの時代だ。
倹約と、節制の手法、工夫に富んだアイディアが沢山出てくる。何度も出てくるので$7.27を読者も忘れられなくなり、ダイム(¢10)やニッケル(¢5)、ましてやペニー(¢1)の硬貨の感触と大事さまでが身についてしまうほどだ。
厳しい節制だが、ボーイスカウトで慣れてるっちゃあ慣れてるし、バイト先のパリ修行帰りのオーナーから聞いた食材を大事にする話に通じるからだろうか、余り辛くならず楽しく読めた。
同じおかずを続けて出さず、1つ飛ばして出したり、次は違う形(煮詰めてサンドイッチにするとか)で出すのは、ボーイスカウトのキャンプでもやったよ。
でも、毎日ではキツかっただろうなぁ・・・。
母親のルビーが強烈だ。
インディアンとフランス系の混血である彼女は、これと決めたら相手が誰であろうと一歩も引かず、激情する事もある。
「凛」というより「頑」という言葉がぴったりで、突進力がある、痩せているのに。
「私の右腕」と呼びかけるジャン・リュックにも時に辛い言葉を投げるし、世への恨み節を吐く事も度々だ。
だが、そんな彼女も弱点があって、肺に病気を抱えている。
調子が悪くなると給仕の仕事を休むことになり、ジャン・リュックが湿布をしてあげて家事もこなす。ジャン・リュックは優しい。
そして、一家の資金繰りはひっ迫し、ご飯は配給の乾燥ポテトを使ったポテトスープばかりになる。
利発なジャン・リュックがだんだんと世界を広げていくのが伝わってくる。
まずはストリート近所の隣人たちと近づいたり離れたりなのだが、貧しいエリアなので奇人も少なくない。
そんな中で雑貨屋のユダヤ人ケーンさんが、ジャン・リュックの良い話し相手になってくれる。
学校で、そして教会で侍者になって、ジャン・リュックは少しづつ大きくなっていく。
質屋で分割払いで手に入れた真空管ラジオは、メインの登場人物のように物語で活躍する。
ニュース、ドラマ、歌謡番組と、当時のアメリカの様子は良く分かるし、
我々の子供時代のテレビのように余暇に欠かせない存在だったのだろう。
ジャン・リュックも家族も、幾つかの番組を毎週心待ちにしている。
そしてアパートの上階に流れの現場労働者のベンが越してきて、一家との交友が始まって、
お話しは徐々に転がり始めていく・・・・
最後には、トレヴェニアンがなぜこの物語を書いたのかが、よく分かる仕組みになっている。
聡明な人だ。
(2015/9/14)
PS江國香織の訳も良い。「とにかく手を挙げ、夢中で訳した。」とどこかのインタビューにあった。
きっとこの「夢中」が効いているのだろう。
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語りかける書評ブログ「人生は短く、読むべき本は多い」からの転記になります。
殆どが小説で、児童書、マンガ、新書が少々です。
評点やジャンルはつけないこととします。
ブログは「今はなかなか会う機会がとれない、本読みの友人たちへ語る」調子を心がけています。
従い、私の記憶や思い出が入り込み、エッセイ調にもなっています。
主要六紙の書評や好きな作家へのインタビュー、注目している文学賞の受賞や出版各社PR誌の書きっぷりなどから、自分なりの法則を作って、新しい作家を積極的に選んでいます(好きな作家へのインタビュー、から広げる手法は確度がとても高く、お勧めします)。
また、著作で前向きに感じられるところを、取り上げていくように心がけています。
「推し」の度合いは、幾つか本文を読んで頂ければわかるように、仕組んでいる積りです。
PS 1965年生まれ。働いています。
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- 出版社:ホーム社
- ページ数:528
- ISBN:9784834253047
- 発売日:2015年04月03日
- 価格:2484円
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