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かもめ通信
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“無意味は人生の本質だ”人は“無意味を愛するすべを学ばなくてはならない”というのだけれど、“無意味を愛する”って結構大変なことのような気がしない?
六月のある朝、パリのある通りを歩いていたアランは、そろいもそろってひどく低い位置でベルトを占めたズボンと、思い切り短くカットされたTシャツの間にヘソをむき出しにしている娘たちに心を奪われ、動揺する。
これではまるで、この娘たちの魅力が集中するのは、太腿でも、尻でも、胸でもなく、身体の真ん中にある、あの丸くちいさな穴になったようではないか。

ある男性(もしくはある時代)が女性の魅力の中心は太腿だと考えるなら、あるいは尻だと、はたまた胸だと考えるというのなら、もっともらしくその理由をあげることができるが、へそとなると……。

アランがそんなことを考えているとき、ラモンはシャガール展の入り口に続く長蛇の列を目にして、絵を諦めて向きを変えて歩き出す。

そして同じ頃、ダルドロは……。

こんな調子でつらつらと、あの人この人の様子や思考をつづり、ほんのひととき互いに重なる接点を鮮やかに描き出す。

八十歳過ぎたチェコ出身のミラン・クンデラがフランス語で書いたこの中編小説は、皮肉と風刺の効いた「阿呆劇(ソティ/sottie/sotie)」とされる。

全編を貫くストーリーらしいものはなく、それとはっきり解る形で社会問題を扱うわけでも登場人物たちの苦痛や苦悩を描くというわけでもない。
皮肉たっぷりに語られる一つ一つの出来事は、あれこれ考えるのが馬鹿馬鹿しいぐらいなのだが、それでもそれら一つ一つに思わずフッと笑ってしまうなにかが仕込まれている。

とはいえフランスで数十万部突破、30カ国で翻訳されたベストセラーというこの本、読み終えた後もこの本にこめられたものを充分味わい尽くしたという気がしなかった。

たぶん私はまだ“無意味”の愛し方がたりないのだろう。
もう少しいろんな意味で枯れた頃に再読してみることにしよう。




追記:クンデラ自身が小説には本文以外の要素をつけることを認めない方針であるため、本書には解説がついていない。
翻訳者による解説は出版社のサイトに掲載されているので、参考までにリンクを貼っておく。
ミラン・クンデラ『無意味の祝祭』解説/西永良成

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かもめ通信
かもめ通信 さん本が好き!免許皆伝(書評数:2229 件)

本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。

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この書評へのコメント

  1. 三太郎2015-06-28 21:09

    英語の歌(時には日本語の歌も)が、言葉の意味など全然かまわずに、好きだということが僕はよくありますが、これなんか、意味も分からずに好きなんだから、無意味を愛することになりませんか?日本語の歌であっても、言葉ではなくて声が好きだ、ということもよくあります。小説の場合、言葉が分からなくて好きになることはないでしょうが、小説の意味など深く考えずに、ごく表面だけを読んで好きだ、というのはありえるかも。それでは僕のいつもの読み方になってしまいますが・・・

  2. かもめ通信2015-06-29 09:20

    三太郎さん、そうですねえ。
    あれこれと掘り下げていくとそもそも人生そのものに意味があるのかないのか、
    もしも意味や意義が見いだすことができなかったとしても、
    生きることそのものも愛せるのかということに行き着くわけですが、
    “生き甲斐”という言葉があるように、人はやっぱり、
    自分の人生になんらかの意味や意義を持たせたいと願うものなのではないかしら?
    80歳を越えたクンデラ自身も
    そういうあれこれを乗り越えて達観することができないから、
    筆を執ったのかしら?それとも、これを最後にするつもりで?等々
    文字にされたこと以上にあれこれと考えてしまう私はやっぱりまだまだ
    「無意味を愛する」境地には達していないのかなあと思うのです。

  3. 三太郎2015-06-28 21:31

    そうですねえ・・・例えば、人生の最後に、自分のやってきたことは無意味だった、と絶望する、といったことが僕自身に起きるかと考えると、・・・意外に、無意味でも面白かったからよかったとなるような気もします。面白ければ何でもいいのかと問われると痛いですが。

  4. かもめ通信2015-06-29 05:51

    三太郎さん。確かに。80歳をすぎてなかなか良い人生だったな~と思えたなら、幸せだと私も思います。
    ただ~難しいのは、クンデラ自身が本当にそう思っているのかどうかという点で、作家の言葉をその字面通りに受け取って、愛すべき馬鹿な男達の話だ~で片づけてしまって良いのかどうか、その裏になにか別の含みがあるのかどうか~今回読んだ限りでは、私には判断ができなくて~。
    いえね。それなりに面白かったんですよ。面白かったのですが“読めた”という気がしなかったのです。
    そんなわけでぜひ、他の方の感想も聞いてみたいな~と。どうです?三太郎さん?!

  5. 三太郎2015-06-29 21:26

    お誘いに乗ってみましょうか。おもしろそうだし。

  6. かもめ通信2015-06-29 21:45

    (^_^)v

  7. 三太郎2015-07-01 21:16

    「祝祭」という言葉に引かれました!「無意味」というのは、とるに足らないもの、というくらいの意味かな?人生が総じてつまらなくても、お祭(ハレの時間)があるなら十分かも。もうすぐ本が届きます。

  8. かもめ通信2015-07-01 21:35

    三太郎さんのレビュー楽しみ♪

  9. 三太郎2015-07-05 18:30

    レビューしました!著者は、読者との年代の差がどんどん開いていき、自分の書いていることはもうストレートには読者に伝わらない、と思ったのでしょうかね?

  10. かもめ通信2015-07-05 19:29

    三太郎さん!早速拝見させて戴きました!さすがですっ!深いですね~!!
    しかし……確かにそうですよねえ。
    スターリンが「鋼鉄の人」という意味のペンネームだということを知らない人だけでなく
    スターリン、誰それ?という世代が沢山……?!
    もしもマドレーヌと話したら、私は途方に暮れそうです(><)ww

  11. No Image

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